オミクロン。楽観論と要警戒論

 英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)は12月11日に、英政府が追加の予防的措置を取らなければ、新型コロナウイルスのオミクロン変異株がイングランドで相次ぐ感染拡大を引き起こし、最悪のシナリオでは今冬のコロナ死者が7万5000人近くに達する恐れがあるとのリポートを公表した。最も楽観的なシナリオでも今年12月から来年4月までにイングランドで入院患者は約17万5000人、死者2万4700人と示唆されている。

 ジョンソン英首相は、屋内施設でのマスク着用の義務化、在宅勤務の推奨、大規模イベントでの人数規制等の対応を決めたが、イングランド市中では新規感染が急増しており、23日には11万9789人と2日連続で過去最多を更新した。オミクロン株は新規感染者のうちの7割を占めるという。

 英政府は新型コロナウイルスのオミクロン変異株について、感染力が強いとみられるとの見解を示している。また、京大の西浦教授によると、オミクロン株が1人の感染者から何人にうつるかを示す「実効再生産数」は、デンマークでデルタ株の3.97倍、南アフリカ・ハウテン州で4.2倍になった。いずれも、オミクロン株の感染力が高いという分析結果が示されている。一方、オミクロン株の病原性(重症化リスク、死亡率)については、英国や南アフリカからの報告がある。

 英保健安全保障庁の23日の発表によると、オミクロン株感染者が入院に至る確率はデルタ株と比べて50~70%低く、救急治療が必要になる確率も31~45%下回るという。南アフリカの機関も重症化や入院のリスクは低いとの研究結果を公表し、オミクロン株の病原性は弱まっているという見解が広がっている。

 LSHTMのシナリオでは、英政府が追加の予防的措置を取ることによって死者数が抑制できるとの試算であったが、ジョンソン英首相は、新型コロナウイルス対策の新たな制限措置はクリスマスまではしないと発表した。英国内でのオミクロン株の感染は増加しているが重症者は増えていないことが根拠のようだ。

 我が国では、オミクロン変異株の報告以降、空港検疫でのウイルス検出が報告されてきたが、12月22日には海外渡航歴がなく感染経路が不明の感染例も報告され始め、年末から年始にかけて市中感染の拡大が懸念される。

 国内の感染拡大の防止に向けては、水際対策の強化によって渡航者によるオミクロン株の国内流入を抑制しつつ、感染拡大を想定した準備が進んでいる。三回目のワクチン接種とオミクロン株への効果については、抗体の血中濃度を高めることによって感染や発症を抑制できるとの報告から、接種が開始された。さらに、ウイルスの増殖を抑える経口投与薬の使用が承認され、その確保が進む。この経口投与薬は、オミクロン株にも有効であり、処方を受けた感染者は自宅療養しながら重症化予防が可能となった。感染・発症予防から、軽症・中等症、重症患者に切れ目なく対応する予防・治療体制が確立できたといえる。

 WHOがオミクロン株を「懸念すべき変異株」に指定してから4週間、日本国内での確認例は他国に比べてまだ少なく、過度な警戒や行動規制は必要ない。国民の感染防止意識も、他のどの国よりも高い。ただし、オミクロン株がこれまでの変異株と比較して仮に弱毒化していたとしても、感染者数そのものが爆発的に増えてしまえば重症者は増え医療機関の逼迫に繋がる。現状では水際対策の強化を継続し日本国内への侵入をできる限り阻止・遅延させ、引き続き検疫・国内での監視を行う必要がある。

 いま我々にできる感染対策はこれまでと変わらない。三回目のワクチン接種の機会を利用しつつ、手洗いや3密を避ける、マスクを着用するなどの感染対策をこれまで通りしっかりと続けることが重要だ。

理化学研究所 マネージャー 橋爪良信

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