「オミクロン株」今できる感染対策を着実に

 南アフリカ共和国の保健当局は11月25日、新型コロナウイルスのワクチンの効果を低下させる可能性がある新たな変異ウイルスが見つかったと発表した。WHO(世界保健機関)はこのウイルスを「懸念される変異株」に指定し、警戒を呼び掛けている。

 南アで完全なワクチン接種を終えた成人は約35%にとどまっている。他のアフリカ諸国の状況はさらに深刻で、アフリカ大陸全体では人口の6.6%にすぎない。拡散すれば南アは深刻な感染第4波に見舞われ、世界にも拡大し得るとの恐れが強まっている。そのため、南アフリカ保健相は、大規模な集団感染が起きないよう国民に努力を求めている。また、同変異株はこれまでに南アフリカと隣国ボツワナで見つかっているほか、南アフリカから香港への渡航者1人からも検出されているという。

 この変異株は変異の数が異常に多いことが指摘されており、ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために使う「スパイクたんぱく質」に30ヶ所以上の変異が起きていると報告されている。そのため、これまでに見出された変異株よりも細胞への感染力が高い可能性があり、アルファ株やデルタ株に高い効果が確認されていたワクチンが、新しい変異株に対しては効果が低い可能性が指摘されている。

 しかし、今の段階ではワクチン効果に対する今回の変異株の影響について判断するのは時期尚早であり、これまでの変異株に比較した症状の重さについても、さらなる調査が必要だろう。この変異株の重大性についてはまだ完全には分かっていないが、我々にとって最善の対策がワクチンであることに変わりはない。

 我が国の政府によれは、新型コロナウイルスの新たな変異株について、現時点では空港検疫を含めて日本国内では確認されておらず、WHOや諸外国の動向などの情報を収集しているところ。また、水際対策についても、新たな変異株の感染が拡大するなど、状況が悪化する場合には機動的に対処していくとのことだ。

 

 ワクチンの接種後6か月以降になると、抗体価(血中の抗体量)が下がり、ブレイクスルー感染が起こることが報告されている。ヨーロッパなど各国で起きている感染拡大はこのブレイクスルー感染によるものが大きな原因であると考えられており、我が国でも接種から6か月を過ぎた高齢者や重症化リスクの高い人、医療関係者を優先に3回目の接種の準備が進んでいる。併せて、若い世代や未接種者への接種も急ぎたい。

 冬になり気温や湿度が下がるとウイルス感染が流行しやすくなり、行動制限が緩和されつつあるため感染リスクが高まることも懸念される。今回の変異株の発生を契機として、やはり次の感染拡大が発生することを想定し、屋内ではマスクを装着し、3密を避ける、こまめな手洗いを徹底するという基本的な感染対策は当面の間は続けていきたい。

 橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

Authors

*

Top