シリーズ コロナ後5年の世界 アメリカのインフレは、今後世界のトレンドとなるか

アメリカのインフレは今後世界のトレンドとなるか?

 アメリカの足元の消費者物価指数が10月も31年ぶりという5%の伸びを記録し、これがイギリス、EUにも波及していることからコロナ禍後に世界にインフレが定着するかどうかが議論に上がり始めた。

 アメリカのインフレは外食、旅行などサービス消費がストップ。替わりにモノの消費が旺盛だが、これに供給が追いついていない事が原因だ。

 モノの消費とばかりに超富裕層は何千万ドルもするヨットを買い、富裕層も豪華な別荘を田舎に建てている。庶民でさえ家具、台所用品を買い込んでいる。これに、半導体不足や、物流を担うトラック運転手、沖仲仕不足、サプライチェーンの混乱も加わってインフレが加速している。

 こうした供給不足によるインフレについては一時的とする見方と2022年頃まで収まらないとする見方が対立している。

 ブラウン大エドガーソン教授はアメリカ経済は生産性の鈍化、不平等の拡大などで依然として弱含みの状態にありインフレはコロナ禍から回復する一時的な現象だとする。一方、ハーバード大のサマーズ教授はバイデン政権の財政政策、コロナ対策として11月成立した一兆ドルの投資法などいわゆるバラマキ政策がインフレを長期化させると主張している。

 インフレへの懸念をどう捌いてゆくのか?今回、民主党左派がFRB議長の更迭を求める中でバイデン大統領の選択は、唯一の民主党党員の理事、ラエル・ブレナードを副議長に指名し党内をなだめる一方、共和党系のパウエルの議長再任であった。パウエル議長はイエレン長官と毎週朝食を共にし政策環境を話し合う一方、実務者として毅然とインフレに対応できると判断したのである。FRBから党派性を払拭しトランプ前大統領の弊と決別した意味もある。

 懸念されるのは、日本である。何もしなければ、折からの原油高、食糧高の中で円安が進行すれば輸入物価の上昇がもたらされ、企業の収益悪化や個人の生活費を押し上げる、いわゆる「悪い円安」になるからである。岸田内閣は、経済成長を促すグリーン・デジタル分野の財政フレームワークなど骨太の政策の提示、実行によって世界の潮流に対抗しなければ出足から躓きかねない。小手先のことをしている場合ではないのだ。

高橋琢磨(元野村総合研究所主任研究員)

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