医療関係者、高齢者へ三回目接種の準備を~年内にも第6波

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行が始まってから、間もなく2年が経とうとしている。世界保健機関(WHO)の統計によれば、全世界における感染確認者は累計で2億4000万人を超え、死亡者は480万人を突破している。

 しかし、人類は手をこまねいてきたわけではない。2020年3月COVID-19がパンデミックであると認識されて以降、バイオテクノロジーを中心とする対ウイルス研究の成果を駆使しながら、新型コロナウイルスの克服へ向けた努力が続けられてきた。

 新型コロナウイルスワクチンが世界で初めて実用化されて以降、全世界のワクチン接種回数は65億回を突破した。先進国に比べて途上国へのワクチン供給が遅れているという課題は解消していないが、2回以上のワクチンを接種した人の割合は、全世界平均で4割に達した。

 我が国でのワクチンの2回接種を終えた人の比率は、10月24日時点で70.1%である。引き続きワクチン接種が継続されているため、10日間で3%、1か月間で10%近くの接種率の上昇となる。順調に進めば、年末には80%を超える接種率となる。

 2021年6月から始まった第5波は、感染力が強いデルタ株(インド型)が主流となった。国内では8月下旬に新規感染者数のピークを迎えたが、10月には500人を下回る日が続き、ピーク時の1/50にまで減少した。人々が日々の生活の中で感染対策を徹底したことに加えて、ワクチン接種が進み、ウイルスの感染がより広がりにくい状況になったことが新規感染者減少の要因と考えられている。また、厚生労働省新型コロナウイルスアドバイザリーボード資料によると、ワクチン接種履歴によって新規陽性者数の発生率が大きく異なることが分かる。例えば、9月27日~10月3日の間の人口10万人当たりの感染者数を見ると、ワクチン未接種者は17.7人、2回接種済は1.6人である。ワクチン接種によって発症を10分の1以下に抑え込んでおり、その効果は絶大であると言える。

 新規感染者の減少を受けて、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が、期限の10月30日で全面解除となり、飲食店に対する時短要請が解除、イベントの開催条件が緩和された。また、旅行等の都道府県をまたぐ移動の自粛も解除された。しかし、いち早く制限緩和に踏み切ったイギリスなどに感染者の増加傾向が見られることから、段階的な緩和を進めつつマスク着用や3密回避などの基本的な感染対策を維持することでリバウンド(感染再拡大)を防ぐことが重要である。

 感染症専門家は、「現在のワクチンは接種から半年ほどたつと発症予防効果が弱まるため、接種開始時期から考えると、日本では12月ごろに第6波が始まる恐れがある。」と警鐘を鳴らす。取るべき対策としては、引き続きワクチン接種率を高めること、高齢者や医療関係者への3回目接種を準備すること、おそらく第6波は第5波よりも重症者や死者の割合は減少すると考えられるため、軽症・中等症患者に対する療養体制を充実させておくことなどが挙げられる。

 第5波では、軽症・中等症患者には中和抗体による治療が可能となり、重症化を防ぐことができた事例は増加したが、点滴での治療となるため医療へのアクセスの点ではややハードルがあることは否めない。それに対して経口投与可能な治療薬であれば、医療者による点滴準備などが不要となり、診断時に速やかに処方できるようになる。そのような経口治療薬の実用化が間近に迫っている。

 経口治療薬が承認されれば、ワクチンや中和抗体と合わせて、感染・発症予防から、軽症・中等症、重症患者に切れ目なく対応する予防・治療体制が完成する。つまり、ワクチン接種によって予防に努め、感染者と診断されれば経口治療薬の処方を受けてしばらく自宅療養する。このような軽症・中等症患者向けのよりシンプルな診療が期待されている。

 ワクチン接種率が上昇し、発症・重症化予防への効果が確認された。また、さらなるワクチン承認と治療薬の充実が見込まれる状況になった。もう間もなく、我々はCOVID-19を克服できるのではないか。そんな希望が見えてきたように思う。

   橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

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