新型コロナウイルスワクチン接種~抗体と免疫細胞の働きについて~

 新型コロナワクチンの接種によって、新型コロナウイルス感染症の発症を予防する高い効果があり、重症化を予防する効果が期待されている。そして、我が国におけるワクチン接種においては、二回目の接種完了者は人口の40%を超えた。

 現在の懸念の一つは、デルタ株と呼ばれるインドで発見された変異株の急速な拡大である。しかし、メディアで伝えられているように、ワクチンを接種すればデルタ株に対しても十分に発症予防効果、重症化予防効果を期待できることがわかってきている。

 ワクチンの効果の確認にはいくつかの方法があり、ワクチンを接種した人の血液中に存在する抗体が、ウイルスの細胞への侵入をどの程度中和する(防ぐ)ことができるかを測定する方法である。現在用いられているワクチンについては、様々な変異をもつスパイクタンパク質に対し、ワクチンを接種した人の抗体が中和活性を有するかが検証されている。その結果、いずれの変異に対しても一定の中和活性があることが確認されている。

 最近、我が国の大学病院より、二回目のワクチン接種後に誘導された抗体が3か月後に4分の1程度に減少するという調査結果が報じられたが、発症予防や重症化を防ぐために必要な血中の抗体量については、さらにワクチン接種が進んだのちの検証を待たなければならず、ワクチンの効果を抗体量のみで議論すべきではない。

 それでは、抗体以外に、感染や重症化を防止できる仕組みはどのようなものか?それは、たとえ血液中の抗体量が減少しても、それを作り出す記憶を持った免疫細胞が存在しており、新たにウイルスが侵入したことを感知すると、免疫細胞が抗体を再生産しウイルスに対処するというものである。

 ここで、最近論文に発表された米国の調査研究を紹介したい。免疫細胞の一種であるT細胞の免疫反応はウイルスの変異に左右されないという報告である。この調査研究では、ウイルス感染症の回復者とワクチン接種者について、従来型および4種類の変異株のスパイクタンパク質の部分構造を準備し、それぞれに対する免疫細胞の反応を調べている。

 T細胞の反応は、抗体と同様に個人差はあるものの、ワクチンの接種によってスパイクタンパク質の様々な部分構造に対する免疫が誘導されること、そして従来型でも変異型でも、その反応は同等であるということが示されている。これは、ワクチンを接種した1人の人が十種類程度のスパイクタンパク質の部分構造に反応できることから、スパイクタンパク質の変異のために数種の部分構造に対する免疫反応が起こらなくても、他の部分構造に対する免疫反応が発揮されるために、変異型にも十分対応できるということになる。すなわち、今後発生する変異型に関しても、現在のワクチンで免疫細胞を活性化できるという結果だ。同様の結果はドイツの大学からも報告されている。

 米国保健当局は、新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種を、早ければ9月後半に米国内の全住民に提供する計画を発表している。一方で、WHOは米国の決定に対して、根拠が不十分であり、世界におけるワクチン配分の不平等を加速することになると警告している。必要なのは、回復者やワクチン接種者の抗体産生量と免疫細胞の反応性を追跡調査し、それがウイルスの感染、感染症状の発症、重症化の防御とどのように相関するのかを明らかにすることである。

 我が国では欧米と比較して数ヶ月遅れてワクチン接種を開始しているため、海外の状況やワクチンの効果検証を見極めながら3回目の接種を行うべきか、行うのであればどのタイミングが最適かを検討することができる。国内では、まだ希望者すべてにワクチン接種が行き届いている状況ではないため、まずは全ての希望者に二回のワクチン接種を完了させることを優先すべきだ。

橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

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