シリーズ 「5年後、コロナ後の世界」 Ⅴ プラットフォーマーを待受ける難題~FBを中心に考える~

 新型コロナの感染拡大が始まって1年になるが、デジタル技術の導入が盛んになり巨大IT企業の成長が加速している。たとえば、フェイスブック(FB)の21年1~3月の売上は前年同期比48%増、利益は94%増といった具合だ。

 暮らしや社会のデジタル化の進展を受け、巨大IT企業の成長は今後5年間をとっても続くという見方も根強い。果たしてそうだろうか。筆者は『トランプ後のアメリカ社会が見えるか』の中で、パキスタン2世の女子学生の論文が反トラスト法の世界を変えてしまう可能性が高くなることを指摘した。その彼女、リナ・カーン、32歳をバイデン政権は反トラスト法を担当するFTC(連邦取引委員会)の委員に指名した。

 ITプラットフォームは、どんなサービスも載せることのできる便利なもので、その提供者は夢を語ってきた。そして、私たち消費者も疑問を持たずに無料サービスを喜んで受けてきた。FCC(連邦通信委員会)チーフエコノミストだったロバート・フォールハーバーが、消費者に利益をもたらしているから独禁法の適用は必要ではないと筆者に語ってから5年とたっていない。だが、巨大IT企業をみる世間の眼は厳しくなった。

 最も厳しい眼が注がれ、火だるまになる恐れが出ているのがFBであろう。同社がいくつものサービスをもちいくつもを企画しているからでもある。

 夢を語って挫折したのは〈リブラ〉発行計画だろう。現状の「仮想通貨」は価値が安定しないが、同じブロックチェーン技術に支えられながらドルやユーロのカクテル通貨として設計した〈リブラ〉は安定した価値をもつ、政府の干渉をうけない世界通貨だとふれ込んだ。しかし、マネーロンダリングに使われる、そもそも政府に与えられた通貨発行権を簒奪するものだと、欧州の中央銀行などから痛烈な非難を受け、計画を引っ込めざるを得なかった。

 だが、中国のテンセントにならい対話アプリを基盤としたEC(電子商取引)関連サービスの拡大を重点戦略に据えるFBは、通貨発行をあきらめていない。発行主体をディエムと名称変更し、ドル・リンクのデジタル通貨の発行認可をスイス当局に求め、このほど仮認可がおりた。

 FBは傘下の〈ワッツアップ〉などの対話アプリを強化している。これはSNSでの個人情報の不適切利用などで批判を浴びていることへの対応でもあるが上記のEC事業に備えてのことでもある。というのは、〈ワッツアップ〉は今や途上国を中心に20億人超と世界最大の利用者をもつSNSであり、ECとその決済の利用者が見込めるからだ。

 ところが、〈ワッツアップ〉に関しては、20年12月にFTCが〈インスタグラム〉とともにFBに事業売却を求める訴訟を起こしている。過去に当局が承認した買収について異議を唱えることはアメリカの反トラスト法の歴史では必ずしも珍しいものではないが、この訴訟が政治的な判断になることは間違いない。

 グローバル課税を巡る動きが活発化していることもアゲインストの風だ。FBを初め巨大IT企業はダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドウィッチと呼ばれる節税策を講じており、FBの実効税率は12%(2020年通年)と世界の大手企業の6割程度の低いものだ。そこで一部の国ではデジタル課税を始めた。トランプはこれを強く牽制していたが、バイデン政権の最低法人税率の提唱をし交渉の場につくことになり、大きな転機を迎えた。国際協調による法人税率の引上げは筆者が『21世紀の格差』の中で提唱したものだが、紆余曲折はあってもコロナを機に実現するだろう。巨額の財政支出を埋め合わせる必要に迫られているからだ。同じ理由から多少とも角度は低くなるが今は無料で利用できているデータにデータ課税があり得る。

 だが、FBにとっての最大の課題は、トランプ大統領のアカウント停止問題で浮き彫りになった「SNSの逆機能」にどう対応していくかだ。というのは、FBの事業モデルは、いうならばきわどい記事で消費者を惹き付け、広告で荒稼ぎするというものだからだ。FBを初めSNS各社は、米国通信品位法230条によって利用者の投稿に対して責任を負わなくても済む一方、削除する権利が認められており、アカウント停止は合法であり、自身が構築し、委員を任命し、運営資金を出している監督委員会でお墨付きをもらっていることで公正は担保されていると主張している。

 だが、FBに言論の自由に関しての「最高裁」機能を持たせて良いのか。通信品位法そのものが憲法との整合性を疑われながら成立したものだ。中立原則を放棄した放送法の改正は間違いだった。そう主張していたコロンビア大学教授のティム・ウーをバイデン政権は国家経済会議(NEC)のテクノロジー・競争政策担当の大統領特別補佐官として起用した。

 トランプが「ネットの中立性」原則を撤廃したのはオバマ政権を支持したIT業界をこらしめるためだ。FBは保険のために民主党上院院内総務にチャック・シューマーに多大な献金をし、娘を入社させている。だが、中間選挙で民主党が勝てば党内左派がすでに仕掛けた上記の仕組みを作動させ、5年後のFBを初め巨大ITの姿がまったく変わったものになっている可能性が高い。というのはIT各社はお互いの得意分野に攻め入っているのでFBだけというわけに行かないからだ。

髙橋琢磨(元野村総合研究所主席研究員)

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