外国人受け入れと新型コロナ感染予防対策

 新型コロナウイルスの水際対策の一環として、政府は、159の国と地域からの入国を原則として拒否しているが、ベトナムや台湾など比較的、感染状況が落ち着いている一部の国や地域との間で、ビジネス関係者を対象に往来を再開させてきた。このような中で、10月から政府は経済の回復に向けて入国制限をさらに緩和し、全世界を対象に、ビジネス関係者に加え医療や教育の関係者、留学生など中長期の在留資格を持つ外国人に日本への新規入国を認めることとした。

 経済回復や観光業界の振興のためのためには入国者制限の緩和は必要であり、オリンピック・パラリンピックの開催のためには来年に向けて入国者を増やしていかざるを得ない状況である。一方、米国やヨーロッパでは、新型コロナウイルスへの感染が再び急速に広がっている。イタリア、フランスやイギリス、それにスペインでは、新規感染者が1万人を超える日が続き、第一波を上回る水準となっている。このような状況下で、海外からの入国者増加は、新型コロナウイルス感染者の流入に繋がる可能性がある。新型コロナウイルス感染者の流入を防ぎつつ、入国者を拡大していくためにはどのような戦略が望ましいのだろうか。

 現在の日本への入国条件は、ほとんどの国からの入国者に対して、入国時に新型コロナウイルスの検査(PCR検査または抗原検査)を行い、その後14日間の経過観察が行われている。現時点では、新型コロナの輸入例が増加しているという情報はないが、今後入国者が増加することで感染が拡大するリスクはないのだろうか。

 我が国における新型コロナウイルス感染の第1波は、3月下旬から感染者が増加し、その原因の一つとして海外からの輸入例の増加が挙げられている。日本政府は3月9日から中国・韓国からの入国制限、3月21日から欧州各国、エジプト、イランなど計38カ国からの入国制限を開始した。しかし、3月末の時点で輸入例は週あたり60例に達しており、こうした海外からの輸入例が第1波の感染拡大の原因の一つであったことが指摘されている。このことからも、世界各国において第2波がまだ収束していない現状で、入国制限の緩和によって再び国内での感染が広がることは避けなければならない。

 果たして、入国時の新型コロナウイルスの検査(PCR検査または抗原検査)と、その後14日間の経過観察は、水際対策として機能するのだろうか。新型コロナウイルス感染性は、ほとんどの人で発症から10日までに症状が治まると言われている。また、発症時の前後数日間がウイルス量と感染性が最大であり、二次感染の大半は発症5日目までに起こるとされている。これらを踏まえて、新型コロナウイルス感染者が入国する3つのパターンを考えてみると以下のようになる。

 第1のパターンは、入国時に発症している場合である。この場合、入国時の検査で陽性になる可能性が高く、偽陰性であったとしても14日間の経過観察中に感染性は無くなる。

 第2のパターンは、入国時には潜伏期で、入国して数日以内に発症する場合である。この場合は、入国時の検査で陰性になったとしても14日間の経過観察中に感染性は無くなる。

 第3のパターンは、入国時には潜伏期で、入国後10日くらい経ってから発症するパターンである。この場合は14日間の経過観察が終わった後もウイルスの感染性が残ったまま感染者が国内を移動することになる。

 以上のように、新型コロナウイルスの潜伏期が最大14日とされているため、非常に少ないながらも第3のパターンが想定される。そのため、理論上は現在の日本の検疫体制では第3のパターンからの感染拡大を防ぐことができないということになる。

 そこで、現在の入国時の検査、その後の14日間の経過観察という条件に、経過観察終了時検査を行うことによって100%に近い感染症例を捕捉することが可能であると考えられる。また、上記の条件を全ての入国者に課すべきかという問題もある。その際には、我が国の新型コロナウイルス感染症の流行度と、入国者の国の新型コロナウイルス感染症の流行度を比較し判断すべきだ。例えば、日本よりも感染者が少ない国からの入国者に上記のような厳しい検査を行うことは非常に効率が悪い。一方で、米国や欧州、インド、南米などからの入国者には、14日間の経過観察終了時に再度検査を行うことが必要だろう。このように、入国時にどこまで厳しい対策を取るのかについては入国者の国と日本との新型コロナの流行度の違いを考慮して、段階的に対応を分けるべきだろう。

 世界の新型コロナウイルスの感染状況をみると、北半球が冬を迎える今後の感染状況がどのように変化するかを見通すことは難しい。現状は、世界各国の流行状況を見ながら、輸入例の報告数をモニタリングし、入国条件緩和の可否や検疫体制の強化の必要性を慎重に判断していく段階にある。東京オリンピック・パラリンピックの開催時までに、世界から選手団や観戦客を迎え入れることができるかを見極めていかなければならない。段階的な入国規制緩和と、輸入感染例の情報共有をもとに国民の意思を確認することも必要だろう。現状では菅総理や森組織委員会会長は強硬に東京五輪開催の方針であるという。しかし、五輪期間中には実に80万人もの外国人が来日するという試算があり、段階的な入国規制緩和が首尾よく進んだとしても、これだけの入国者を安全に迎え入れることができるのだろうか。国民全体が高い関心と歓迎の意思をもって東京五輪を迎えられるような対応を望みたい。

橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

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