新型コロナウイルスワクチン開発への期待

 政府は、来年前半までに新型コロナウイルス感染症ワクチンを全国民に提供できる数量を確保する方針を公表した。米バイオベンチャーのモデルナが開発する新型コロナウイルス感染症ワクチンについて、来年上半期から約4000万回分の供給を受けられる基本合意を締結したという。さらに、ファイザーやアストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソンからの供給を単純に足し合わせれば、全国民に供給できる量を満たすことになるという。

 果たして、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発は成功するのだろうか。上記の海外の製薬会社は既に、多数の患者さんについて、ワクチンの有効性、安全性、使い方を最終的に確認する大規模臨床試験(第3相試験)をスタートさせている。アストラゼネカは、ブラジルで実施中であり、日本国内でも治験が開始された。また、モデルナは、米国で3万例を対象とし、試験をスタートさせる見込みである。そして、ファイザーも米国で試験を開始し、世界約120施設へ展開する予定である。これらの臨床試験によって、どの程度、発症や重症化を抑えられるかが注目されている。

 一般に、ワクチンの有効性とは、ワクチン接種によって(プラセボや接種しない場合と比べて)疾患になるリスクをどの程度減らせるかを指標として評価される。例えば、麻疹に対する弱毒化生ワクチンは、ワクチン接種により90%以上で感染を予防できることが分かっている。また、インフルエンザに対するインフルエンザHAワクチン(HA:ヘマグルニチンAとよばれるウイルス由来のタンパク質)は、ワクチン接種により30~80%程度、発症を阻止したり、死亡例を減らしたりすることが分かっている。

 世界保健機関(WHO)は、2020年4月末、新型コロナウイルスのワクチンに求められる特性を公表し、有効性としては50~70%との見解を示した。これは、インフルエンザワクチン程度の有効性を期待していると思われる。

 また、感染予防ワクチンの開発にも期待が掛かっている。というのも、現在臨床試験が進行中のワクチンは、いずれも血中の中和抗体(ウイルスのヒト細胞への侵入を阻止する)を誘導するもので、有効性が認められても発症の予防や肺炎などの予防にとどまると考えられているためだ。新型コロナウイルスは上気道(鼻から鼻腔、鼻咽腔、咽頭、喉頭まで)で感染するが、血中の中和抗体は上気道の細胞表面には届かない。そのため、ワクチン接種でウイルスの感染を防ぐには、感染が起こる上気道に、経鼻投与などによって細胞表面に分泌される粘膜免疫を誘導することが必要とされている。

 ワクチン接種によって、発症を予防したり、肺炎を減らしたりできれば、入院患者を減らし、医療現場への負担を軽減できる。一方で、感染予防が実現すれば、感染の拡大を抑えられると期待され、新型コロナウイルスの流行そのものを封じ込める可能性もみえてくる。感染予防ワクチンはインフルエンザウイルスに対しても実現できていないが、海外では既に開発に着手している企業もあり、今後に期待したい。

橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

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