新型コロナウィルス、急増する高齢重症者対策と通常医療の両立に不安はないか?

 東京都を中心に新型コロナ患者数の増加が止まらない状況が続いている。東京都は7月15日、都内の感染状況を4段階の警戒度の最高レベルにあたる「感染が拡大している」に引き上げた。一方で、医療提供体制の警戒度は、重症患者が横ばいであることなどから、2番目に重い「体制強化が必要であると思われる」に据え置いた。

 東京都は、7つのモニタリング項目を設定して、感染状況の推移を捉え、データを分析しながら医療提供体制の対応を決定している。確かに7月22日現在の入院患者数の916人、重症者数18人という数字は、緊急事態宣言時のピークの入院患者数1413人、重症者数105人をそれぞれ下回っており、逼迫している状況ではない。また、重症患者に対応した確保病床数は100床であり、現状の18人には対応可能で余裕があるように見える。しかし、「重症者数」を医療機関の逼迫の判断指標として、感染者対策を講じる根拠とするのは妥当なのだろうか。

 これまでの感染状況を振り返ると、新規患者数と重症者数のピークには、約2週間のタイムラグがあることがわかる。つまり、重症者の増加は今よりも2週間遅れてやって来る。新型コロナウイルスの感染者のうち80%は、1週間程度で風邪の症状(軽症)のまま治癒するが、20%の感染者は発症から7~10日経ってから呼吸困難など肺炎の症状が現れ、その後5~10%の肺炎患者が、呼吸管理が必要な重症化への経過をたどるためである。

 現状では、重症者数や死者数が少ないため「ウイルスが変異し弱毒化した」、「夏は新型コロナの致死率が低くなる」といった科学的根拠のない情報が散見されるが、今後、重症者や死者数は遅れて増えてくると考えるべきだ。

 東京都の感染状況をみると、7月14日から7月20日までの報告では、依然として感染の中心は30代以下の若い年齢層であるが、50代以上の全体に占める割合が15.6%と中高年層に感染が広がっている。また、60代以上の新規陽性者はほぼ都内全域で発生している。今後、全体的な患者数の増加に伴い重症化するリスクの高い高齢の感染者が増えてくるだろう。また、40代、50代の重症者が発生していることも気がかりだ。

 高齢の感染者のうち一定の割合で重症化することはこれまでの感染の状況から想定されており、数週間後の重症者数は現時点の高齢の感染者数から予見可能だ。したがって、現時点での重症者数ではなく「重症化リスクの高い高齢の感染者数」を指標として、医療機関の対応を準備すべきである。

 感染の第一波(3月1日から5月25日の緊急事態宣言解除まで)でのピーク時には、医療機関は予定手術や救急患者の受け入れを大幅に制限せざるを得ない状況に陥った。特に重症患者数の増加は、新型コロナウイルス感染症患者のための医療だけでなく、通常の医療提供体制を圧迫することとなる。救命救急医療やがん医療などの通常の医療と新型コロナウイルス感染症患者のための医療を両立することが重要である。

 病床の稼働には、人員確保、患者の移動、感染防御対策の拡充を含め2週間程度を要することが指摘されており、今後の重症患者の急増に備え、病床の確保など病院の受け入れ体制の強化を早急に進める必要がある。

橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

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