イタリア旅行最新事情~実は、観光客に冷たい?~

 世界遺産が世界で最も多い国は、現在、イタリアと中国で、登録数は55件とトップに並んでいます。そのイタリアの11の世界遺産を10日間で巡る旅に9月下旬出かけました。

 関西の旅行会社が募った団体旅行で、成田発の直行便で午後出発、午前帰国という日程でした。片道約12時間の空の旅を差し引くと、観光できる時間は実質8日間の旅でした。

 主要都市だけでもローマからナポリ、フィレンツェ、ベネチア、ミラノを訪ね、青の洞窟で知られるカプリ島、世界一美しい海岸と言われるアマルフィ、古代ローマ時代の生活が垣間見えるポンペイ遺跡、岩山に築かれた洞窟住居の町・マテーラ、石積みのとんがり屋根の家が建ち並ぶアルベロベッロ、ピサの斜塔、ルネサンス文化の中心地となった知的で芸術的な街・フェラーラ、これらの有名観光地を駆け足で観て回るハードスケジュールでした。

 毎朝5時半か6時には起床し、あわただしく朝食を取って荷物をまとめ専用バスで出発します。団体客専用の大型バスを中心に特急電車や高速船を使って移動する過密スケジュールが毎日待ち構えていました。古希を迎えた私には少々過酷ともいえる日程で、帰国後、私も妻も風邪を引き1週間ほど体調を崩しました。

 さて、イタリアですが、観光するには身には厄介な国です。ローマを例にとると、今年から観光スポットへの大型バスの乗り入れが規制されるようになり、目的地から遠いところで団体専用バスから降ろされます。朝の通勤ラッシュ時には渋滞に巻き込まれるのでスケジュール通りには到底着けません。歴史のある建物は勝手に壊せませんし、掘れば遺産が出てくる土地柄なので地上も地下も駐車場がなかなか作れないのが実情です。

 当然、観光バスの駐車場は完備しておらず、私たちを降ろした団体専用バスは、街の中をぐるぐる回って、私たちをピックアップするタイミングを計ります。街には自由奔放な路上駐車の車があふれ、バスの通行を妨げます。こんな具合ですから、観光名所で過ごす時間よりバスを待つ時間の方が多いということになります。トレビの泉はなんと観光時間が5分しかありませんでした。コインを投げる余裕なんて当然ありません。

 それでは渋滞などを避けてもっと早い時間にホテルを出発したらいいのではと思うかもしれません。日本は働き方改革がやっと始まったばかりですが、ヨーロッパはさすがにこの面では先進国です。バスの運転手は、しっかり労働時間を守ります。休憩時間もしっかり取ります。出発時間を早めて、もしじっくり観光しようものなら、タイムオーバーでその日の最終目的地までたどり着けないかもしれないのです。政府は観光バスからしっかり通行税をとっています。それなのに駐車場もまともに整備していません。地元のガイドは、イタリアは観光立国といいながら観光客には冷たい国だと苦々しく話していました。

 小刻みなスケジュールをこなしたイタリア観光の最終日は、ファッションの街・ミラノでした。ここでやっと午後から自由時間が取れました。私と妻は団体を離れ、今回の旅の最大の目的の一つ「最後の晩餐」の見学に行きました。

 「最後の晩餐」はルネサンス時代の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品で、サンタ・マリア・デッレ・グランツィエ教会に付属するドメニコ派修道院の食堂の壁に描かれています。

 チケットは完全予約制で、3か月前からオンライン予約が始まりますが、解禁と同時に売り切れてしまうほどの人気です。従って多くの人は、ツアー会社が催行する割高な壁画鑑賞付きツアーを泣く泣く選ぶことになります。私は日本出発の1週間前、インターネットで奇跡的に希望通りの時間のツアーを入手できました。ガイド付きの街案内も含むとはいえ、料金は、公式チケットの約6倍もしました。

 「最後の晩餐」の鑑賞は、25人をひとつのグループにして15分間が過ぎると強制的に次のグループと入れ替わるシステムです。ゲートが開き、はやる気持ちを抑えて壁画のある部屋に入ると内部は薄暗く、前方にライトに照らされたレオナルドの最高傑作がぼんやりと浮かび上がって見えました。フラッシュなしの撮影は許されていたので夢中でシャッターを切りました。

 「最後の晩餐」は、描きなおしのできるテンペラ技法と油彩を用いたため、もともと気温や温度の変化に弱かったのですが、壁画のあった部屋が、食堂のあと馬小屋としても使われ、大洪水に見舞われて水浸しになったり、第2次大戦では空爆にあったりして3年間も露天にさらされたと言われています。  

 当然壁画の痛みは激しく修復作業を終えた今も鮮明ではありませんでしたが、イエスが裏切り者の存在を告げて使徒が驚く劇的な場面をじっと見つめていると霊的な世界に入り込んでいくような不思議な感覚を覚えました。

 徳島県鳴門市の大塚国際美術館には『最後の晩餐』の修復前と後の姿が陶器の板に原寸大に再現されていると聞きます。日本で『最後の晩餐』に再会できる日は近そうです。

山形良樹(元NHK記者)

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