“津波”は近づいている?~ある経済学者の警告~

 白い塊のようなものが松林を抜けてきた。間髪を入れず高さ15m-20mの松林の上に飛び散る水しぶきが見えた。「津波がきた」(止まった刻 検証・大川小事件 河北新報社報道部編 岩波書店刊)。
 2011年3月11日午後2時46分、宮城県沖で発生したM9.0の地震による大津波が東北地方沿岸部を襲った。石巻市河北総合支所の広報一号車を運転していた山田英一さんが松林を越える白い波を見たのは地震からおよそ40分後。車は県道に駐車中で松林まで2.4km、小学校まで1.3kmだった。そして、10分後、津波は避難を始めた生徒、先生もろとも小学校を飲み込んでいった。
 さて、先月(9月)中旬、東京のビルの会議室に
元日銀のエコノミスト、それに経済ジャーナリストら5人が集まった。テーブルの上には「金融リスクと日本経済」という論文が置かれ、間も無く議論が始まった。
 論文は「ポイント4点」という書き出しで始まっており、最初に「アメリカの金融リスクは今年の終わりから来年にかけて破裂する惧れがある」という指摘があった。”破裂する惧れ”とは分かりやすく言えば”バブルがはじける”ということ。それもそう遠くない将来にという事だ。この論文を書いているのは経済学者の吉川洋氏と元日銀副総裁の山口広秀氏の二人だが、日本でバブルについてここまで言い切った論文は珍しい。
 論文では、先ず、今、アメリカで進むバブル的な状況を説明する。特にこの10年続く金融緩和によって巨大な金余りが生まれ、今や採算性が低い企業・ゾンビ企業にも大量に資金が流れ込み込んだ結果、本来なら倒産すべき会社が多く生き残っている。
 ゾンビ企業はBBB格債券という信用度が極めて低い”ボロ社債”を発行する。行き場がないお金が”ボロ"を承知で買う。こうした”ボロ社債”を組み込んだ金融商品を購入している金融機関は実は、アメリカだけでなく日本でも多い。
 リーマンショックは、やはり信用度低い住宅ローン証券の破綻から始まった。今回は、ゾンビ企業の破綻が金融機関を苦境に追い込み、やがてバブルの崩壊へ進むというのが吉川、山口氏の警告だ。
 アメリカの中央銀行Fedのパウエル理事長は、今年5月の講演で「アメリカ企業の債務は歴史的に高いレベルにあるり、そのリスクを注視している」と述べた。又、BIS(国際決済銀行)の年次報告(2019年6月)は「BBB格債が社債全体に占める割合は、2010年20%だったが 、最近時点では45%に達している」と警告した。
 そして、今年の夏には、アメリカで金融市場を揺るがす出来事があった。8月27日NYで期間10年の長期国債の金利が期間2年の短期国債の金利より低くなるという、平時にはない、いわゆる逆イールド現象が起こった。長期金利が短期金利を下回る逆イールド現象はやがて不況がくる事を示唆する指標の一つとされ、リーマンショックの前にも見られた。
 さて、金融市場を中心に世界経済を、そして日本経済に迫りつつある”津波をみた”。しかし、実は、金融に加えて特に、中国経済の構造変化、これに追い打ちをかける米中貿易戦争というこれまでにない危機の様相が見えている。中国から国外へと出て行く企業も出始めた。中国経済の空洞化が進むのか?
 アメリカの投資会社 ゴールドマン・サックスは、8月中旬「米中貿易戦争が世界不況のトリガー(引き金)を引くかもしれない」というレポートを出した。 “津波”は近づいている?
陸井 叡(叡Office)

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