旅日記 アンコール遺跡を訪ねて

 ピースボートでの地球一周の船旅から早2年が経とうとしています。その後、年2回は海外旅行をして、まだ行ったことのない国を中心に訪問することにしました。休みが自由にとれる自営業者の特権です。サラリーマン時代、特に記者だった頃は、こうはいきませんでした。

 今年は、まず、3月19日から24日までカンボジアとベトナムに行きました。人気の高いアンコール遺跡群とハロン湾の2つの世界遺産を巡る旅です。そのうち今回は、アンコール遺跡観光に絞ってお話しします。

 19日朝、成田空港を出発。ベトナムのホーチミンを経由して遺跡観光の玄関口・カンボジアのシェムリアップ空港へ着いたのが午後6時前でした。さすがに人気の観光地、入国審査ゲートに旅行客の長い列ができていました。

 ここでは指紋認証システムが導入されていました。一人ずつ両手の指すべての指紋を機械に登録するのですが、審査官、旅行者ともに不慣れなせいか時間をとられます。私も覚悟して臨みましだが、なぜか指紋登録をしなくてすみました。 一緒の団体旅行のメンバーに後で聴いたところ、高齢者(何歳以上か基準は分からない)は登録しなくてよかったようです。旅行客の多いシーズンには指紋登録を全く実施しないというネット情報もありました。こんなことで不審者をチェックし、テロの未然防止ができるのでしょうか。まったくおおざっぱな対応です。結局、私たちのメンバーすべての入国審査が終わるのに1時間以上もかかってしまいました。長旅の疲れがどっと出て、遺跡観光前にまさに出鼻をくじかれた格好でした。

 翌日は午前中、城壁都市アンコール・トム、午後はアンコール・ワットをじっくり観て回りました。見学は、カンボジア人は無料ですが、外国人観光客はアンコールパスと呼ばれる顔写真つきの入場券が必要です。私の場合、3日券で62ドルでした。現地人ガイドによると、2018年にアンコール遺跡群を訪れた外国人観光客は約450万人で、入場券を発売する政府系の団体によると入場料収入は約126億円で、年々増えているそうです。アンコール遺跡には様々な利権が渦巻いていて、ホテルやレストラン、土産物店など遺跡観光にかかわる収益はかなりな額になります。現地人ガイドによると遺跡周辺では中国人が土地を買い漁っており、周りのホテルの経営者は、ほとんどが中国人やベトナム人だそうです。ベトナムや中国など周辺国もからんで、アンコール遺跡観光の収益争奪戦が激しさを増しています。

 翌々日、優美な外観からクメール芸術の至宝とされるバンテアイ・スレイと、アンジェリーナ・ジョリー主演のハリウッド映画「トゥームレイダー」のロケ地になったタ・プロムを訪れました。曇ってはいたのですが、気温36度で蒸し暑く、下着まで汗びっしょりになりました。名古屋の夏のうだるような暑さを思い出しました。カンボジアは電力事情が悪く1日2回は停電するといいます。一般家庭では、エアコンはなく扇風機が頼りです。夜停電したら眠れないと現地人ガイドは話していました。

 バンテアイ・スレイは、アンコール期前半の967年に造られた古い寺院です。赤色砂岩の壁への精緻な彫刻で知られています。“東洋のモナリザ”と称される中央神殿の女神像は、フランスの作家アンドレ・マルローが若かれし頃、のこぎりで切り出し盗もうとして捕まったことで一躍有名になりました。周囲にはロープが張られ遠くからしか拝めません。確かに不思議な微笑みをたたえていました。

 タ・プロムは12世紀末に仏教寺院として建てられ、その後ヒンズー教に改宗しました。廃墟となり密林の奥深くに眠っていましたが、遺跡発見時の景観で保存する方針で、あえて必要最低限の修復しかしていません。樹齢300年を超える巨大なガジュマルの樹木が食い込み巨大な根に覆われた遺跡は、神秘な世界を創り出しています。欧米の観光客は映画の撮影場所の前で長い列を作って記念撮影をしていました。次回はベトナム、ハロン湾の旅です。

山形良樹(元NHK記者)

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