まるで中国!~統計不正の構造~

 「最近中国に行き、こうして無事に帰ってきました」とおどけた調子で巧みに日本語を操る。「でも、中国批判はこの辺で止めておきます」と警戒心も見せた。中国出身だが、日本で活躍する中国人エコノミスト 柯隆 氏(東京財団政策研究所 主席研究員)だ。
 その柯隆氏の講演が東京・内幸町の日本記者クラブであったのは新年早々1月の事だった。講演の数日前に中国政府は昨年一年間の経済成長率は6.6%と公表していた。ほぼ、想定通りだという。だが、柯隆氏は「実は、中国経済の昨年の成長率は1.67%でしかなかった」とする中国人民大学・向松柞教授の見解を紹介する。今の中国は、かつて日本がバブル崩壊を迎えていた時期「ミンスキーモーメント」(バブル膨張の最終局面で、突然リスクが顕在化、株価などが暴落を始める瞬間の事。アメリカの経済学者ハイマン・ミンスキーの名にちなんでいる)にあるとの他の中国人エコノミストの意見も紹介した。
 同じ頃、日本電産(東証一部上場、モーター生産では世界一)の決算発表があった。永守重信会長は中国での事業について「これまでにない受注の落ち込みが続いている。この変化は甘くみてはいけない。リーマンショックに近い事が起こるかもしれない」と述べた。会社によると、昨年11月の中国での売り上げは前の年より30%減少、12月も同じ位の減少だという。
 そして、中国では、日本電産だけではなく、昨年後半”異常な”需要の落ち込みに見舞われたアップルなどの外資系企業の決算発表も続く。アメリカとの通商摩擦の影響というよりむしろ、中国経済の大きな構造変化が始まったとする見方が強い。だが、そうした中、昨年末、中国の習近平国家主席は、「我が国の経済の先行きは明るい」と大見得を切ったものだ。
 中国の経済統計が実態を表していると全面的に信用するエコノミストは少ない。だが、信用抜群だった筈の日本の統計にも疑念が向けられ始めた。
 きっかけは、先ず、昨年 安倍政権が掲げた「働き方改革」を巡るデータ論争だった。安倍首相は国会で「裁量労働者が働く時間は、一般労働者より少ない」と厚生労働省のデータを元に説明した。ところが、その後、データは”安倍首相好み”に加工されていた事が判明、働き方改革法案から「裁量労働」は削除される事態となった。
 そして、今回の「毎日勤労統計」では、標本となるデータの取り方が全数調査から突然、抽出方式に変わった事、その背後に、安倍首相の当時の秘書官らの示唆があったとされ、結果として実質賃金などでアベノミクスに都合がよいデータが揃ったとされる。統計の専門家が不審に思った。
 中国の統計は、例えば経済成長率は 先ず、中国共産党・政府の目標・方針が決まり 後は、各自治体(省)がそれに合わせて”鉛筆を舐めて”数字を決めて行く事が公然の秘密となっている。日本の今回の統計不正も同じ構造ではないか?官僚達が安倍首相の都合に合わせて数字をつくっている?
 政策立案とは、先ず、政策対象について公正な調査を行い、結果を分析して内容を固めて行くものだEBPMとよばれる。ところが、今回は、「まず、安倍政権が政策方針をつくり、役所がそれに会うデータをとるために知恵を絞り、結果を加工したり、悪いデータは出さなかったりしている」(法政大学 上西充子 教授 朝日新聞 1月朝刊インタビュー)
 今回の「毎日勤労統計」の不正では一部の国民年金や雇用保険の給付に支障が生じるという。そして、更に、国際的には、日本の統計は”まるで中国”という不審の目で見られてしまう事になるだろう。
陸井 叡(叡Office)

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