2025大阪国際万博はカジノとセット

 EXPO70(大阪万国博覧会)の年、筆者は新聞社の地方支局記者だった。県政担当として「県の日」取材のため、10日余り会場近くの宿舎に泊まり込みで会場内を駆けずり回った。異様な姿(と思った)「太陽の塔」を見上げながら、会場に漂う「明るい未来」に胸躍らせた。

 6年半後の2025年、再び大阪で万博が開かれることが決まった。20年東京五輪の規模を上回る一大イベントになるはずだが、地元大阪ではまだ、EXPO70の時ほどのわくわく感は伝わって来ない。もちろん、関係者は「関西再生の起爆剤に」と声高にする。一方で、「負担ばかりかさんでお荷物にならないか」などと懸念する識者もいる。万博会場と隣り合う場所で、大阪府・大阪市がカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致して万博前年の24年に開業する計画に取り組んでおり、万博とカジノをセットで進められることに反発の一因があるようだ。

 2025年大阪万博は5月3日から185日間、大阪湾内の埋め立て島の夢洲(ゆめしま)で開かれる。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。150国・地域からの参加を予定、来場者は海外からの約300万人を含む約2800万人を見込む。「健康と長寿」をキーワードに、人工知能(AI)、仮想現実(VR)、モノのインターネット(IoT)などの先端技術を駆使した「未来社会の実験場」となる、と説明されているがピンとこない。肉付け作業はこれからだ。会場建設費は約1250億円かかる見込みで、国、地元自治体、経済界で3分の1ずつ負担することになっているが、東京五輪同様膨らむことにならないか。

 会場となる夢洲は総面積約390㌶。東京臨海副都心(442㌶)に匹敵する広さだ。うち155㌶を万博、70㌶がIRに当てられることになっている。夢洲は現在、一部がコンテナふ頭、物流施設などとして活用されているが、人家はなく、広大な空き地が広がる。全体の約40%が未造成のままだ。

 大阪湾には夢洲とともに咲洲(さきしま)、舞洲(まいしま)の3つの人工島がある。大阪市が、大阪湾ベイエリアを埋め立てて三つの島を造成、国際交流拠点「テクノポート大阪」を建設して「夢、咲き、舞う」新都心にする構想だった。ところがバブル崩壊などもあって開発は頓挫。08年には大阪五輪を招致し、舞洲をメーン会場、夢洲には選手村を建設する計画だったが、これも北京に惨敗、夢洲は「負の遺産」として残った。

 大阪府・市は万博の開催を関西再生の絶好のチャンスとしており、準備に動き始めている。大阪メトロ(旧大阪市営地下鉄)は、中央線を約3㌔延伸する計画を昨年末に発表した。咲洲にある終点のコスモスクエア駅から海底トンネルを通り、夢洲駅(仮称)まで伸ばす。延伸と合わせ、新駅には高さ275㍍、55階程度のタワービルを建設する。ホテルや商業施設などを入居させる大型プロジェクトだ。夢洲―咲洲間を結ぶ「夢咲トンネル」の大部分は整備済みだが、利用されていない。

 夢洲と舞洲間は「夢舞大橋」でも結ばれているが、車線拡幅などの整備が必要だ。大阪市は万博開催を受けて、埋め立て造成や大橋拡幅などの経費として補正予算140億円を昨年末に計上した。

 万博による経済波及効果は約2兆円と試算されている。日本銀行大阪支店は、建設投資増加による直接効果、ホテル建設など関連投資、商業施設や交通インフラ整備などが見込まれ、関西ブランドの向上が期待されるという。

 大阪府・市が進めているIRは、カジノだけでなく、ホテル、国際会議場、東京ビッグサイトを上回る規模の国際見本市会場などを整備する計画で、IRと万博の相乗効果を強調している。新年中にIR業者が選定される見通しだが、地下鉄延伸の経費540億円のうち200億円をIR事業者に負担させる考えだ。

 カジノ構想については、ギャンブル依存症の広がり、反社会的勢力の介入、青少年への悪影響などの観点から、大半の新聞各紙も疑問を呈している。読売新聞は社説で「ギャンブルに入れ込んだ顧客の散財に期待するような成長戦略は健全とは言えない」(18年2月27日付)と主張したが、同感である。また、地震に伴う液状化や津波被害などへの懸念もある。地盤かさ上げなどが予定されているが、昨年9月、台風21号で空港島が予想を上回る高潮に襲われ、滑走路が水没した記憶が生々しく、不安は消えない。

 万博は、かつての経済発展を見せつける「巨大産業見本市」から、近年は現代社会が直面する「課題解決」をめざすように転換を迫られている(18年8月26日、朝日新聞)。大阪万博はうまく表現できるだろうか。また、万博を一過性のイベントに終わらせないようにする手立ても、今から入念に練っておく必要がある。関西はEXPO70では大いに盛り上がったが、その後は地盤沈下が進んだとの指摘もある。府・市は万博後、国際エンターテインメント都市にするとの構想を描いているようだが、具体性はまだない。大阪万博に対する期待と懸念が交錯するなかで新年を迎えた。もっとも筆者は「黄泉の国からこんにちは」となるかもしれない。

七尾 隆太(元朝日新聞記者)

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