シリーズ 客船で世界を旅してみた~その16~

 ピースボートの旅では、多彩な船内企画が用意されていました。洋上大運動会や夏祭りもありましたが、一番気に入ったのは操舵室の見学ツアーでした。
 参加希望者は掲示されたスケジュール表の中から都合の良い時間帯を選んで予約します。各回の定員は10名で、見学はひとり1回限り、希望者全員が参加できます。午後4時からの回に参加しました。
 ピースボートの旅行企画・実施会社ジャパングレイスの代表・狭間俊一さんの案内で約30分間操舵室を中心に見学しました。操舵室は航海士2人1組・4時間交代で勤務しており、ガランとしていました。普段船長はいないとのこと。早速、舵を操るポーズをとって記念撮影をしました。航海士も笑顔で一緒にカメラに収まりました。サービス満点です。
 9・11のアメリカ同時多発テロ以降警備が厳重になり、操舵室に入るドアには鍵がかけられ、入室者はその都度、必ず名簿表に氏名を書き署名することが義務付けられるようになりました。船内の監視カメラが100台以上もあると聞き驚きました。うっかり馬鹿なまねはできません。船が遭難した場合は、卵型の赤いブイを海に投げます、するとブイから信号が出て人工衛星経由で遭難した船の位置を自動的に知らせるようになっていて、以前のように通信機もモールス信号も使わないこと、さらに、船が沈むまでに8~9時間かかるので慌てないことなどを教わりました。大変有意義な時間でした。
 男社会だった船乗りの世界も女性の進出が目立つようになり、ピースボートにはパナマ出身の女性の一等航海士がいました。しかし今でも世界の船員人口の98%は男性船員で占められていて、女性の活躍が遅れている世界に見えました。

~ハワイ・ダイヤモンドヘッド登頂~

 2017年7月12日、中米グアテマラから11日間かけて最後の寄港地、ハワイのホノルルに着きました。約40年ぶりのハワイ、旅の疲れを癒すのに最適の地で2日間を過ごしました。初日はハワイのシンボル、ダイヤモンド・ヘッドに登りました。1700年代後期、西欧の探検家や商人たちが噴火口壁面に光る方解石の結晶をダイヤモンドと見誤ったことからそう呼ばれるようになりました。 
 港からワイキキ経由でバスを乗り継ぎ登山道の入口で降りました。そこから標高232mの山頂を目指してひたすら歩きました。気温は30度を超え日差しがきつかったのを覚えています。片道1.3キロの山道の途中では、暗くて狭いトンネルを抜け、99段の石段を登り、螺旋階段を上がってやっと頂上に到達しました。肌を撫でる風が心地良く、約1時間かけた登山のご褒美でした。山頂は、沿岸警備には理想的な場所なのでかつて要塞でした。展望台からワイキキビーチや太平洋など360度の絶景を心行くまで味わいました。

~ハワイの負の側面・ホームレス急増~
 ハワイ2日目は、最先端のテクノロジーを駆使した観光用潜水艦で水深30mの海中の世界を楽しみました。ワイキキ沖では、過去100年間に天然の珊瑚礁が次々と失われ、わずかな魚しか生きることができないほど環境が悪化した時期がありました。今は人工漁礁群の設置等で元の環境に戻りつつあるといいます。沖合に設置された人工漁礁や飛行機の残骸などを新たな住処に悠々と泳ぐ魚の群れやウミガメの姿を40分あまり観察しました。
 ところで、ハワイではホームレスが大きな社会問題になっています。確かに街を歩いていると所々でホームレスを見かけました。ホームレスは、州都ホノルル市のあるオアフ島だけでも、約5千人いるといいます。ホームレスが増えたのは、冬でも凍死する恐れのない常夏の島に全米からホームレスが集まってきたことが背景にあります。ホームレスになった原因は、精神疾患と薬物中毒が半分近くを占め、エイズの感染者や家庭内暴力の被害者が続きます。州政府や市は、こうした病人を治療し、ホームレスの宿泊施設に助成金を出すなど様々な取り組みをしています。華やかなハワイの負の側面です。ハワイを出るといよいよ帰国、地球一周の航海は終わりに近づきました。連載も次が最終回です。
山形良樹(元NHK記者)

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