シリーズ 客船で世界を旅してみた~その11~

 今回の船旅では、行く先々で世界遺産を観ました。日本には現在21の世界遺産があります。そのひとつ世界自然遺産の屋久島に6月末、2泊3日で行って来ました。羽田空港を出発し、鹿児島でプロペラ機に乗り継ぎました。1800mを超す峰が連なる屋久島は、雲に覆われ、まるで神秘のベールに包まれているようでした。有視界飛行のため、視界不良で引き返すこともあると言われていたので、着陸するまで本当にヒヤヒヤしました。

 屋久島の6月は、1年で最も雨量の多い月です。案の定2日目には大雨警報が発令されました。その警報も昼過ぎに解除されたので宮崎駿監督の「もののけ姫」の舞台のイメージそっくりな原生的な森を散策し、個性的な屋久杉や豪快な滝の数々に出会いました。途中シカやサルにたびたび遭遇しましたが、クライマックスはウミガメの産卵でした。妻の出産にも立ち会ったことがないのに、ウミガメの出産(?!)に立ち会うことになるとは夢にも思いませんでした。さて、船旅に戻ります。

  2017年6月14日、この日は時差調整日でした。寝る前に時計の針を1時間戻します。時差調整日には必ずレストランのテーブルの上に調整を促すカードが置かれます。毎日配られる船内新聞にはトップページの左上に「時差調整日」の文字が踊ります。

 現地時間は、水曜日の午後4時すぎ。まもなくカナダ南東部にあるセントローレンス湾から大西洋に出ます。右舷の彼方の海岸線に風力発電の風車が並んでいました。日本との時差はマイナス10時間ですから、日本はすでに翌日の15日(木)、深夜2時すぎです。船の旅がありがたいのは時差調整を小刻みにできることです。1日1時間戻すか進めるだけで良いのです。これが飛行機だとそうはいきません。行き先によっては昼夜逆転もあります。いわゆる時差ボケの原因になります。船ではそういった心配はありません。ただし今日が何曜日かわからなくなります。日付も次第にあやしくなります。時差ボケより本当にボケないか心配でした。

 翌日、大西洋をバミューダ諸島に向け航行中の午前9時すぎ、船内放送で「急病患者が出たので急遽カナダのハリファックスに針路を変更します」とアナウンスがありました。当日は9時半から乗客の避難訓練が予定されていました。その事前通知かと思っていたのでびっくり。ヨガの最中に気分が悪くなったようです。脳梗塞かも知れません。11時すぎカナダ沖でレスキュー隊のヘリコプターが上空に現れました。プールのある8階の後方デッキを使うとのこと。危険なので周辺は立ち入り禁止になりました。10階のスポーツデッキには出られたのでカメラを持って駆けつけました。

  風が強くて肌寒いのに、ロープで仕切られたデッキには救助活動を一目みようと7~80人が集まっていました。ヘリコプターは船の周りをゆっくりと旋回したあと、後方デッキの上でホバーリング態勢に入りました。ヘリコプターからワイヤーで宙吊りになった隊員2人と担架が次々に降りてきました。デッキの隊員がワイヤーで固定した担架に患者を乗せると、ヘリコプターの隊員がワイヤーをゆっくりと巻き上げ始めました。患者はしばらく宙に浮いたあと、ヘリコプターに無事収容され、固唾を飲んで見守っていた人々の間から拍手が湧きました。

 ところで、急患をボートやヘリコプターで搬送するのはこの時点で4件目でした。病気やけが以外にも同室の人と折り合いが悪くなって下船した人も加えると、いったい何人が地球一周を途中で諦めたのでしょうか。最初の寄港地シンガポールでパスポートを無くした老人の場合、パスポートを再発行してもらい自分で飛行機に乗り次の寄港地で我々と合流する手もありました、しかし、認知症気味でもあり1人旅は自信がないと諦めて早々と帰国したそうです。地球一周も容易ではありません。

 17日、バミューダ諸島の首都ハミルトンに到着しました。エメラルドグリーンの海に白いヨットが浮かぶリゾート地です。日差しが強く、気温は真夏日手前の29℃、10日も経たないうちに冬から一気に夏になりました。この4日間に限ると気温が25度も上がったのです。急激な気温の上昇に身体が追いつけずだるくなりました。

  この日は、沖で国際ヨットレース「アメリカズカップ」の決勝が行われていました。世界遺産の街セント・ジョージを散策し、名物のジンジャービールを飲みました。ビールと名乗ってはいますが、アルコール分は一切なく生姜味の効いた甘い清涼飲料水です。一息ついたあと1905年に偶然発見された「クリスタル洞窟」を見学しました。深さが約42mあり、天井から鍾乳石が簾のようにぶら下がっています。地底湖の水は透明度が非常に高く、光を当てると深さ16mの底まで緑色に透けて見えました。見学時間は40分余りでしたが、地底探検をしているような気分を味わいました。次は南米ベネズエラに向かいます。

山形良樹(元NHK記者)

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