知の集積進む「けいはんな学研都市」~関西からの報告~

京都、大阪、奈良の3府県にまたがる関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)で、IPS細胞を活用した創薬の研究が4月から始まった。理化学研究所が、中心部(京都府精華町)の「けいはんなプラザ」内に研究開発拠点を設置、京都大IPS細胞研究所や企業などと連携して、アルツハイマー病など難病の新薬開発などをめざす。けいはんなの研究活動に弾みがつく、と歓迎されている。
けいはんな学研都市の街づくりは、ちょうど30年前の1987年に施行された関西文化学術研究都市建設促進法に基づいてスタートした。これまで、文化学術研究地区(3600ヘクタール)に立地した研究所などの施設数は137。開発当初から立地している国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、情報通信研究機構(NICT)などが、情報通信分野で研究成果を出し始めているが、研究拠点が集積するにつれ、研究分野も環境・エネルギー、医療・バイオなどにも広がっている。IPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥氏が在籍したこともある奈良先端科学技術大学院大学も同都市内にある。
ここ数年に進出した主な施設は、サントリーワールドリサーチセンター(2015年)、京都大学大学院農学研究科付属農場(16年)、日本電産生産技術研究所(2月業務開始)など。日本電産の研究所は所員が最終的に1千人規模になる計画だ。
都市全体のかじ取り役、公益財団法人・関西文化学術研究都市推進機構が音頭を取り、3月下旬から始まった自動運転の公道走行実験も話題になっている。実験車を低速で走らせ、同乗するスタッフはハンドル操作をしない状態で停止、右左折などを繰り返しながらデータを収集、完全な自動運転に近い「レベル4」の実現を目指す。パナソニック、京阪バス、同志社大など15企業・団体が参加している。企業や研究機関が共同で取り組む「企業乗り合い型」のこうした実験は珍しいという。
「けいはんな」の施設の中で、案外知られていないのが国立国会図書館関西館の存在。2002年に開館して15年になる。陶器二三雄氏の設計で外壁は総ガラス張り、緑の多い周辺の景観に溶け込み、都市のシンボルのようなたたずまいだ。書庫は地下、閲覧室も半地下にあるのが特徴。広々とした閲覧室は使い勝手がいい。機能も、東京本館の単なる補完ではない。例えば、アジア情報サービス。中東・アフリカまでのアジア地域の図書、雑誌、新聞の収蔵の中心は関西館が担っている。東京館で見たいときは、関西館から取り寄せてもらうことになる。また、科学技術関係資料、国内博士論文、文部科学省科研費報告書などは関西館で所蔵している。来館しなくても遠方から複写サービスを申し込める遠隔利用サービスの窓口も担っている。現在、南側に新館を増設中で、19年度に完成する計画で、収蔵能力は1100万冊となり、東京館(1200万冊)に匹敵する規模になる。
東の「つくば」(筑波研究学園都市)に対して西の「けいはんな」――とよく比較されてきた。「つくば」は官主導で進められ、国の機関が集中して立地したのに対し、「けいはんな」は民主導で、12のクラスター(地区)を設けて、クラスターごとに段階的に整備されてきた。学術研究施設と住宅地が混在しているのも特徴で、都市全体の人口は約25万人。人口は増え続けている。バブル経済の崩壊と長期的な景気低迷に伴い、開発は計画より大幅に遅れていたが、数年前から勢いを取り戻してきた。アキレス腱だった交通アクセスも次第に整備が進んできた。未整備地域の開発も順次進んでおり、将来が楽しみな地域である。
七尾隆太(元朝日新聞編集委員)

写真:国立国会図書館関西館(ウィキペディアより)

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