「新型インフルエンザ」発生に警戒怠るな

▼感染死は世界で7400万人
 そろそろまた注意を促しておきたいことがある。新型インフルエンザの発生だ。
新型がひとたび発生すると、人が免疫(抵抗力)を持っていないため、次々と感染してあっという間にパンデミック(地球規模の大流行)を引き起こす。WHO(世界保健機関)や厚生労働省の予測によれば、ウイルスの毒性が強いと、世界で7400万人が感染死し、日本国内でも最悪64万人が命を落とす。
 分かっているだけでも新型は、1918(大正7)年のスペインかぜ、1957(昭和32)年のアジアかぜ、1968(同43)年の香港かぜ、そして2009(平成21)年4月にメキシコ(?)から世界中に広がり、パンデミックを起こしたブタインフエンザ由来の弱毒のものと、合わせて4回発生している。ちなみにスペインかぜは日本でもかなり流行して約39万人の死者を出した。
新型インフルエンザの発生のサイクルは40年から10年といわれ、そろそろ発生が心配になる周期に入る。新型は世界のどこかでいつ発生してもおかしくない。
 それゆえ警戒と備えが必要なのである。しかし巷ではインフルエンザシーズンの真っ最中だというのに新型の「新」の字も聞こえてこない。政府が進めてきたパンデミック用ワクチンや抗ウイルス薬の備蓄も十分なのだろうか。
新型インフルエンザについてはこれまでも「メッセージ@pen」に計3回、記事を書いてきた。2011年11月号では「『パンデミック・フルー』を忘れるな」(フルーはインフルエンザの略)と警告し、2014年3月号では冒頭から「脅すわけではないが、発生の危険性が高まっている」と指摘した。

▼ニワトリの殺処分は風物詩?
 ここで新型インフルエンザの復習をしておこう。
新型はブタの体内で生まれる。ブタはカモのインフルエンザウイルスにも、人のインフルエンザウイルスにも感染する。ブタの細胞内でカモのインフルエンザウイルスの遺伝子と人のインフルエンザウイルスの遺伝子とが混ざり合って遺伝子が組み変わることである日突然、発生する。
その発生場所は人の暮らしの中にブタやカモが密接に存在する中国南部だといわれてきた。
ブタを介さなくとも、カモのウイルス自体が蔓延し、次々と変異を繰り返すことでも新型が発生する。カモのインフルエンザが、いわゆる養鶏場を襲うあの鳥インフルエンザである。
 今冬も1月10日に香川県さぬき市の養鶏場で「H5N6」タイプの強毒の鳥インフルエンザが見つかり、感染の拡大を防止するため、周辺地域でニワトリや卵の持ち出しと持ち込みを禁じるとともに、約9万羽を超えるニワトリを殺処分した。H5N6はお隣の韓国の養鶏場で昨年11月ごろから流行しているウイルスだ。カモなどの渡り鳥が運んできたとみられている。
 消毒用の白い消石灰が一面にまかれた養鶏場で白い防護服にマスクとゴーグルを身につけた職員が殺処分を行う光景は、冬の〝風物詩〟になってしまった。ワクチンもあるが問題が多く、殺処分の方が効果が高い。
 たとえば香港ではいまから約40年前の1979年5月。それまで「人には感染しない」と考えられていた鳥インフルエンザウイルスが、インフルエンザの症状を起こして死亡した3歳の男の子の検体から見つかり、鳥インフルエンザが人に感染することが初めて分かった。
見つかったウイルスは毒性の強い、トリエボラともいわれる「H5N1」タイプで、香港政府は直ちにニワトリを一斉に殺す処分を行い、H5N1の人への感染拡大を食い止めた。

▼正しく恐れて発生に備えたい
 やや専門的な話になるが、H5N6やH5N1のH(ヘマグルチニン)やN(ノイラミニダーゼ)は、ウイルスの表面にたくさん付いた毒性などを決めるアミノ酸(タンパク質)で、Hが16種類、Nが9種類ある。カモはこのHとNの組み合わせの数、つまり16×9=144もの種類の鳥インフルエンザウイルスを持つと考えられている。
 それらがある特定の変異をすることで人に感染しやすくなったり、人に次々と感染する新型インフルエンザに生まれ変わったりするのだから鳥インフルエンザはどこで発生しようが、決して蔓延させてはならない。
 物理学者で随筆家の寺田寅彦は「災いは忘れたころにやってくる」と語った。新型インフルエンザも同じである。「正しく恐れろ」と指摘したのも寺田だった。鳥インフルエンザや新型インフルエンザが発生すると、風評被害やパニックが起きる。それゆえむやみに恐れるのではなく、個人個人が知識を身につけ、正しく恐れて発生に備えたい。
木村良一(ジャーナリスト)

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