シリーズ 客船で世界を旅してみた ~その6~

 3ヶ月半も同じ船で寝食を共にすると気の合う仲間ができます。下船後、そうした人たちで集まって、各地でOB・OG会を開いています。年明け、私たちが乗った2017年の94回と、2014年の77回クルーズ有志の合同ランチ会が、東京・銀座で開かれたので参加しました。集まったのは、60代が中心の男女あわせて17人で、時の経つのを忘れて旅の思い出に耽りました。
 ピースボートには4人部屋もあります。初対面同士の場合、気が合えば良いのですが、波長の合わない人が1人でもいると大変です。今回の船旅でもトラブルを起こして強制的に下船させられた人もいたそうです。私の場合は、妻と2人部屋で、新鮮味がなかったかわりに当然問題は起きませんでした。

~スペイン・バレンシア~
 さて、船旅の方は、2017年5月15日朝、スペインのバレンシアに到着しました。スペインの名物料理パエリアの本場で、オレンジの名産地として知られる緑の多い美しい街です。重要な収入源だったオレンジも、安いモロッコ産に地位を奪われました。街路樹のオレンジはとてもまずくて単なる飾りにすぎません。現在は観光が第一の収入源です。
005d 005e 15世紀、絹の取引所として建てられた世界遺産ラ・ロンハは、街の中心部にありました。地中海の重要な港として栄えた黄金期のシンボルで、ねじったような形の柱に特徴があります。こうすれば柱の強度が増すそうです。
船に同乗していたバレンシア出身の語学担当によると、スペイン人は、1日5回食事をします。朝食は午前8時、11時にサンドウィッチの軽食、14時から15時に昼食、17時から18時がおやつ的な軽食、21時から22時が夕食で、23時から夜食を取ることもあるといいます。

~ジブラルタル海峡~
005a 翌日の夜9時半、日没直後にジブラルタル海峡に入りました。地中海と大西洋をつなぐ海上交通の要所です。船のデッキは、海に沈む夕日と海峡をカメラに収めようと、人で溢れていました。ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸を隔てる海峡の幅は、最小で14km、最大で45km。海流は最大2ノット程度(時速3.7km)と思ったほど速くありません。
 地中海側からの入口に当たる右舷・スペインにあるジブラルタル港は、イギリス領。左舷・モロッコのセウタ港はスペイン領と、実にややこしい。中央デッキに立ち、頭を左から右にゆっくり振ると、アフリカからヨーロッパまで、町の灯りが遠くキラキラと輝いて見えました。

~ポルトガル・ポルト~
005b 5月18日、ポルトガル第2の都市ポルトに着きました。国名の由来となった街で、世界遺産に登録された歴史深い街並みや、ポートワインで知られる観光地です。ポートワインは醸造過程でブランデーを加えてアルコール度数を高めた甘口のワインです。食後酒ということで、ドウロ川に面したレストランで昼食後、濃厚な赤ワインを味わいました。1杯約400円、対岸の美しい旧市街を眺めながら飲むワインの味は格別でした。
 それにしても大西洋に入ってから船の揺れがひどくなりました。左右にゆっくり揺れるだけではありません。時折何かにぶつかったようなドーンという音が鳴り響き、寝ていると身体が浮き上がります。直下型の地震にでもあったような感じです。船内放送では、デッキに出るときは十分に気をつけ、階段は手すりを利用し、開閉するドアに手を挟まれないようにと再三注意を促していました。何度も船に乗っている人の話では、揺れはまだまだ序の口で、過去には重い扉に手を挟まれて指を2本切断した人もいたそうです。

~モン・サン・ミシェル~
 5月21日早朝、第二次世界大戦時にノルマンディ上陸作戦の舞台となったフランスのル・アーブルに着き、ツアーバスで世界遺産モン・サン・ミシェル観光に出発しました。片道約3時間の長旅です。モン・サン・ミシェルに程近いレストランで昼食、名物のオムレツを食べました。ふわふわしていて口の中で溶けてしまいそうで、甘くて美味しく、デザートに思えました。
 シャトルバスに乗り換えて目的地へ。幻想的な景観が印象深いモン・サン・ミシェル、天国の番人・聖人ミカエル(仏語でミシェル)を祀る岩山という意味だそうです。海抜80mの岩山に土台が築かれ、その上に修道院が建っています。イギリスとの100年戦争で、あらゆる攻撃に持ちこたえただけあって、修道院というよりまさに要塞という感じです。約2時間かけて石段を登り降りして3階建ての修道院をくまなく見て回りました。中は薄暗くてひんやりしていました。修道院への参道は、土産物屋や飲食店がひしめき、日曜日と重なって観光客や礼拝に向かう人々で溢れていました。
 ところでヨーロッパの観光地では、公衆便所というものをほとんど見かけません。用を足そうとすると有料トイレを使うか、飲食店でコーヒーでも飲んでトイレを借りるしかありません。ここでも0.5ユーロ支払って有料トイレを利用しました。観光地のトイレ事情について言えば、日本の方が格段に優れています。次回はセーヌ川を上り古都ルーアンに向かいます。
山形良樹(元NHK記者)

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