二期目に入る?黒田日銀-待ち受けるリスク-

先月(11月)末日、 東京・銀座のとあるビル13階の一室。元日銀副総裁と経済ジャーナリスト数人による定例の勉強会が開催されていた。
元日銀副総裁が用意した資料が机の上に置かれたが、この日は資料無しの議論から始まった。来年2018年4月任期を迎える黒田東彦日銀総裁の後任人事をめぐる動きだった。
安倍首相が既に国会で「黒田総裁を信頼している」と述べている事。財務省、日銀には黒田氏が始めた異次元緩和策が道半ばであり、責任を果たして貰うには留任が相応しいとの意見が根強い事が紹介された。一方、財務省出身で現スイス大使の本田悦朗氏が度々帰国、自身を「日銀総裁に」と猟官運動をしている情報も示されたが、所詮は当て馬という事で黒田氏留任説が大勢だった。
さて次に勉強会は、黒田氏が二期目に入った場合のリスクは何かという議論に移った。リスクは2つ。まず「2%インフレは実現できるか?」そして、異次元緩和(黒田バズーカ)に「出口(終り)はあるのか?」という事だった。
2013年春、安倍首相はデフレ脱却を掲げて、ダークホースだった黒田氏を日銀総裁に抜擢した。黒田氏は4月、総裁に就任すると「2年で2%」というインフレ目標を表明、「金融市場に大量に資金を提供すれば景気は良くなってインフレがやって来る」と主張した。だが、資金を”ばら撒け”ども”ばら撒け”ども、今なお消費者物価は0%台が続き、2%延期宣言は遂に6回に達した。
黒田氏は先月(11月)名古屋市で講演。「企業は人手不足に効率化などで対応し、賃上げや商品値上げを抑えているが、こうした事は続かない。(物価を)押し上げる力は徐々に強まってきている」と述べた。
しかし、勉強会では幾つかの事例を元に、例えば、サービス業ではパートの主婦や退職後の中高年者を正社員より安い賃金で雇う動きが広がっている事。更に、多くの職場でデジタル化が進んで寧ろ人余りの現象さえ見られるなど構造的な変化が進み「2%インフレ」の実現は今後も難しいとの意見が大勢だった。
さて、勉強会は2つ目のリスク、「異次元緩和に出口(終り)があるのか?」という問題に移った。黒田日銀は「2年で2%」いうインフレ目標に向けて、具体的には大量の国債を金融市場から購入、その代金という形で資金を大量に供給した。日銀が現在保有する国債は国債発行残高総額の40%。異次元緩和が始まった2013年3月末のほぼ3倍という急増ぶりだ。
実は、日銀だけでなく、2008年のリーマンショック対策としてアメリカ、ヨーロッパ(EU)の中央銀行も大量の国債などを買い上げる金融緩和を進めた。しかし、危機からほぼ9年、まずアメリカは既に、国債購入の減額を始め、やがて購入を停止、更に、保有国債の売却によって適正な保有額に落ち着くものとみられている。又、アメリカは危機から長く続いた0%金利政策も改め小幅ながら金利引き上げへと舵を切った。
しかし、日銀は「2%インフレ」の実現まで異次元緩和は続けるとしており、その”異常”ぶりが国際的に際だってきた。
こうして勉強会は終盤に入った。長期に亘って日本、アメリカ、ヨーロッパ(EU)の中央銀行が巨額の資金を市場に流しこんだ結果、何が起こったか?実は、資金のかなりが各国の株式や都市部の不動産に集中投資され、バブルの兆候を見せている。例えば、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は先月30日史上最高値を記録した。アメリカでトランプ大統領が就任して一年近く、株価の上昇率は30%を大きく超え、トランプバブルという声もある。
アメリカの株式市場がバブルに近づいているかどうかを予測するデータ、いわゆる恐怖指数「CAPEレシオ」によると、ニューヨークダウは先月、ITバブル(2001年)のレベルを超えたという。
バブル崩壊の引き金はアメリカが引くだろう。その時日銀はどうなっているか? 今のところ、シミュレーションだが、日本の株価と国債そして円が暴落 、いわゆるトリプル安の世界だ。日銀が抱える巨額の国債の暴落は金利暴騰、猛烈なインフレを日本にもたらす。異次元緩和のツケが回って来る。
シミュレーションが杞憂で終わって欲しいものだが、もし、黒田氏が留任するなら、そろそろ異次元緩和の手仕舞いを考えるべきではないか?
陸井 叡(叡Office)

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