シリーズ・客船で世界を旅してみた~その2~

 先日、新聞を読んでいたらテレビ欄の下に「まさにクルーズ生活」という見出しとともに、豪華な食事を囲んで語らう高齢者や社交ダンスを楽しむお年寄りの写真が目に飛び込んできました。よく見ると、千葉県にあるシニア向け分譲マンションの広告でした。「非日常感が醍醐味の豪華客船、ここではクルーズ生活を365日味わえます」という謳い文句、これを読んでの第一印象は、「ピースボートには当てはまらないな」というものでした。
 海外から日本に帰ってくると普段見慣れた風景がどことなく違って見えるものです。でも、ピースボートの長旅から帰国したとき、心の中に変化は起きませんでした。町を歩いても電車に乗っても見えてくるのはいつもと変わらない景色なのです。友人にこの話をしたら、ピースボート生活は非日常ではなく日常だったのではと分析してくれました。つまり、ピースボートは、ほとんど日本人という村社会で、毎日特別に豪華な食事が出るわけでもなく、習いものやスポーツなど国内で行っていたことをただ船内で継続しただけで、国内の日常生活の延長でしかなかったという訳です。
 さて、旅の方に話を戻しましょう。4月21日、国外の寄港地としては最初のシンガポールに到着しました。スコールと強い風のため1時間ほど下船が遅れ、観光の出鼻をくじかれました。シンガポールは、新婚旅行で訪れて以来40年ぶりの訪問です。人口約570万人の淡路島ほどの島国が、東南アジアの貿易、交通、金融の中心地として目覚しい発展を遂げていました。
 今回は、5年目にオープンした近未来ガーデン「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」観光をツアーに選びました。高さ50mの人工の木・スーパーツリーにあがり、高層ビルの上に船が乗ったような形のリゾートホテル、マリーナ・ベイ・サンズや金融街を見ながら空中散策を楽しみました。
 ピースボートスタッフのシンガポール人から聴いた話では、シンガポールは、PAP・人民行動党の事実上の一党支配で言論の自由はなく、経済格差は米国並み、男子は18歳から2年半の兵役があり、出生率は世界で最も低く、外国人排外主義も高まりを見せるなど数多くの課題があるということです。近代的な美しい街並みの裏には、そうした課題の多くが隠れているのだなと思いながら観光して回りました。
 2日後の23日には、第2の寄港地タイのプーケットに到着しました。世界有数のリゾート地として知られるタイ最大の島です。気温は34度で蒸し暑く、エメラルドグリーンに輝く美しいビーチでのんびりしたいところでしたが、私にとっては初めてのタイ、夜には出航というスケジュールなので、慌ただしく団体バスに乗り出かけました。
20171005a やはり定番のお寺巡りに民族舞踏鑑賞、そして辛くてすっぱいタイ料理を堪能しました。旅の最後に、最南端にある夕日の名所・プロムテープ岬で、夕日が水平線に沈む絶景を眺めることができました。今日はラッキーと思ったのも束の間、夕日目当てに集まった人たちが、車でどっと帰るものですから“有名”な渋滞に巻き込まれました。結局、本来30分で行けるところが1時間40分もかかりました。その時間までには必ず船に戻ってこなくてはいけない帰船リミットの夜8時を30分余りオーバーしていました。もし個人で遅れていたら乗船できないところです。帰船リミットに遅れた場合は、原則その人を置いて船は出港します。その場合、自分で代替交通手段を見つけて船を追いかけ、次の寄港地で再乗船するしかありません。船ならではの厳しいルールです。
 ところで、最20171005b新ニュースを知りたい時、国内ではテレビやインターネットを使います。ピースボートでは、客室にテレビはありますが、ニュースは見られません。見られるのは、外の景色と映画、船の位置情報、それに船内情報番組だけで、外部の番組は一切見られません。インターネットの方はWi-Fi接続で、船内の特定の場所で使えます。ただ100分で2100円と高額なうえに、ものすごくつながりにくいのです。パソコンの画面がフリーズしたまま時間だけが虚しく過ぎていくことがよくありました。そこで、ネットでは、よっぽどのことがない限りニュースを見ることとメールをすることを諦めました。FACEBOOKにつながったわずかなチャンスに投稿し、家族や友人に近況報告することで済ませました。ネットとテレビが自由に使えないという点では非日常だったかもしれません。次回は、スリランカ訪問です。
山形良樹(元NHK記者)

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