<シネマ・エッセー>いつも心はジャイアント

スウェーデンと言えばイングリッド・バークマンとグレタ・ガルボという二人の名女優を生んだ国ですが、ヨハネス・ニホーム監督・脚本のこの映画は、スウェーデン映画界のアカデミー賞3冠をとっています。

映画の主人公、リカルドは生まれつき頭蓋が変形する「狭頭症」という難病を患い、母親が出産後、精神のバランスを失って育てられなくなったため、リカルドは福祉施設で成人します。高度の福祉国家といわれるスウェーデンでも、障害者に対する偏見は根強く残っていて、リカルドが施設を出ると、様々な差別や迫害にあいます。

同じような境遇の者が集まる施設の中で、リカルドは仲間たちと助け合って楽しく暮らすことが出来、30歳の誕生日には施設のみんなから心のこもった祝福を受けます。その日こっそりと施設を抜け出したリカルドが、自転車を走らせて母親が暮らす別の施設を訪ね、一瞬だけ母親と対面するシーンは胸を打ちます。

それと、リカルドが唯一得意とするスポーツが、フランスから始まった「ペタンク」という小さな金属のボールを投げ合って競うゲームで、パートナーのローランドからは金色のボールを誕生日にプレゼントされ、練習を重ねて自由自在に操れるようになり、北欧選手権に出場するまで腕を上げていきます。

身体が人並外れて小さく、無力なリカルドも、空想の世界では自由にイマジネーションを膨らますことが出来、北欧の雄大な山岳地帯をノッシ、ノッシと歩く巨人をいつも頭に描くのです。現実の冷たい社会での悩み多いリカルドと、美しい自然美の中で自信に満ちた空想のリカルドとの交錯が映画の最後まで続きます。そして、ペタンクの欧州選手権で最後にリカルドを襲う出来事は・・・。

映画を見終わって思い出したのは、同じような障害を持ちながら書道界で活躍する金澤翔子さん(32歳)のことでした。この5月、鎌倉の建長寺を訪れたとき、書院で開かれていた金澤さんの書展でその雄渾な作品を見て驚いたのですが、ダウン症という難病にかかりながら5歳の時から書道をはじめ、2002年の日本学生書道文化連盟展で金賞を受賞。2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」の題字を依頼されるほどの書家に成長した人です。
そして、ちょうど1年前、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された痛ましい事件を考え合わせると、障害者とそれを取り巻く環境の『落差』に驚くばかりです。

リカルドが手にする金色のボールは、心ない人の出来心で取り返しのつかない悲劇をもたらしますが、金澤翔子さんの握る大きな筆は、見る人を感動させる大作をこれからも生み続けることでしょう。

磯貝 喜兵衛(元毎日映画社社長)

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