大阪万博の誘致、カジノ計画と同時進行

東京五輪・パラリンピック開催の5年後の2025年、大阪で再び国際博覧会(万博)が開かれるかも知れない。大阪府の誘致に呼応して政府は積極的に支援する方針で、3月に開催概要も公表された。これから本格的な誘致活動が始まるが、大阪府と大阪市はカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致も目指しており、万博招致とIR誘致が一体となって進むことになる。地元大阪のメディアは逐一、詳しく報道しているが、首都圏ではそうでもないようだ。そこで、主要新聞各紙の報道などをもとに現状報告しよう。言ってみれば活字版「キュレーションサイト」。
 「2025大阪万博」のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、サブテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」。経産省の有識者による検討会で開催概要がまとまった。報告書案によると、開催期間は25年5月3日から11月3日まで。会場は大阪市湾岸部の人工島「夢洲(ゆめしま」の100㌶。入場者数は2800万~3千万人を想定し、会場建設費は1250億円。全国への経済波及効果1・9兆円を見込む。人工知能(AI)、ロボット、ドローン、仮想現実(VR)などの最先端技術が活躍することになりそうだ。
 大阪万博誘致の発案者は、松井一郎・大阪府知事(日本維新の会代表)。「25年大阪万博は、東京五輪が終わった後の大阪、日本が成長する起爆剤になる」とインタビューで語っている(16年11月25日付読売)。大阪府がまとめた基本構想案では、テーマは「人類の健康・長寿への挑戦」だった。関西の集積している医療分野の研究機関、企業を念頭にライフサイエンスを軸に据えようとした。だが、経産省の検討会では、若者や新興国の賛同が得にくいとの声が出されて変更になった。
 会場予定地の夢洲(北港南地区)は、咲洲(さきしま、南港地区)、舞洲(まいしま、北港北地区)とともに大阪湾岸開発のため順次埋め立てられてきた人工島の一つ。1983年には大阪市が、高次都市機能を集積した「テクノポート大阪」構想を打ち出し、関西活性化の新拠点に生まれ変わるはずだった。しかし、バブル崩壊などもあって開発は進まず、計画は見直しを迫られてきた。現在までに、咲洲には住宅団地、太平洋トレードセンター(ATC)、見本市施設「インテックス大阪」、大阪府咲洲庁舎やコンテナふ頭などが集積。舞洲にはレジャー施設や、スポーツ施設などの誘致が進み、ようやく「スポーツアイランド」としての姿が見え始めている。実はこの舞洲で、2008年に大阪五輪が開かれるはずだった。舞洲にはメーンスタジアム、プールをはじめとした競技会場を建設、隣りの夢洲には選手村ができる計画だった。ところが、01年のIOC総会で北京市に惨敗、これらの人工島は「負の遺産」として残った。夢洲は一部にコンテナターミナルや物流施設が稼働しているほかは、だだっ広い空き地のままで大部分は未造成だ。
 「2025大阪万博」がすんなり実現するわけではない。第1のポイントは強力なライバルの存在。4月中に立候補を閣議了解し、5月22日までに博覧会国際事務局(BIE)に届け出ることになっているが、すでにパリが去年11月に立候補、本格的な運動を展開している。他都市にも検討の動きがあるといい、出遅れは免れない。
 第2は、大阪府・大阪市が万博の主会場を予定している同じ島内の北側にカジノを含めた統合型リゾート(IR)の誘致を目指していることだ。府市は「早ければ(万博前の)2023年の誘致を目指す」(3月30日付朝日夕刊)としており、万博とIR計画は同時進行することになる。だが、IR誘致には「ギャンブル依存症が増えそう」などと反対する声が少なくない。朝日新聞社と朝日放送(ABC)が2月25、26日、大阪府民を対象に実施した世論調査によると、大阪万博の誘致には「賛成」が62%を占めたのに対し、IR誘致には「反対」が60%に上った(3月1日付朝日)。経済界でも、大阪商工会議所は慎重な構えを見せている。
 第3に資金調達の方法。会場建設費1250億円は政府と大阪府・市、経済界で3等分する方向だが、経済界には負担が大き過ぎると警戒する向きもある。
 大阪万博の開催地は来年11月、BIE総会で加盟国約170カ国の投票で決まる。
七尾 隆太(元朝日新聞編集委員)

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