人間はAI(人工知能)を使いこなせるのか

 年末から年始にかけ、謎の棋士がインターネット上で世界中の著名な棋士を次々と破り、大きな話題を呼んだ。実はこの棋士、昨年(2016年)3月に韓国のトップ級棋士に4勝1敗で打ち勝った米グーグル傘下の企業が開発した、AI(人工知能)の囲碁ソフト「アルファ碁」の改良型だった。
AIが自ら学習しながら進化していく「深層学習(ディープラーニング)」が急速に進歩した結果、チェスより複雑な囲碁でトップクラスの棋士に勝てるようになった。囲碁の世界だけではない。いまやAIは医療、交通、エネルギー、教育、文芸といった人類の生活すべてに大きな変化をもたらそうとしている。
しかしイギリスの宇宙物理学者のホーキング博士が警笛を鳴らすようにその使い方を誤ると、人類の滅亡につながる危険性がある。人間はAIを使いこなすことができるのだろうか。
機械は人間の生活を豊にしようと、考案された。18世紀に起きた産業革命では蒸気で機関車や船を動かし、人や物を早く遠くに運ぶことができるようになり、生活は大幅に向上した。
だがその半面、資本家と労働者の間に格差を生み、公害によって自然環境が破壊された。テクノロジーは戦争やテロにも使われ、多くの命がいまも失われている。めざましい勢いで進化するAIの登場は、産業革命以上に大きな悲劇をもたらすかもしれない。
18年前に公開された米SF映画「マトリックス」。キアヌ・リーブスふんする主人公のネオが、体をくねらせて拳銃の弾を避け、人間離れした技で戦うシーンは圧巻だ。敵は知性を持つ汎用人工知能のコンピューターだった。現実の世界で人間をカプセルの中で飼育してエネルギー源にする一方、仮想現実の世界を作り出して人間の脳を活性化させていた。
このマトリックスの世界が、現実のものとなる危険性がないとはいえない。たとえば「脳科学の進歩で人の脳をAIで再現できれば、その人の意識や記憶をロボットに移すことも可能になる。その結果、人は肉体から切り離されバーチャルな存在になる」と指摘するAIの専門家もいるし、世界では人間の意識をアバター(分身)のロボットに移すプロジェクトも進められているからである。
それゆえ「人間の脳を操作していいのか」「AIをどのように人間の社会に役立たせ、どこで制限を加えるべきか」など倫理面の議論を時間がかかってもしっかりと行う必要がある。

 

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