参院選挙の結果をめぐる自民党内の 混乱は続いているが、石破茂首相も参加する超党派の議員連盟「石橋湛山研究会」が、静かに注目されている。1昨年に発足したばかりの若い議連で、共同代表は、岩屋毅外相(自民)と古川元久元国家戦略担当相(国民)、篠原孝元農水副大臣(立憲)の3人。石破政権からは岩屋外相、村上誠一郎総務相ら7閣僚が参加。出席者は時には100人を超えるという。ただ自民、立憲、国民民主党3党からの参加者もいるので、何かと憶測も出るらしい。
石破首相はもとから湛山に関心があったという。総裁選に出馬直前に出版した著書「保守政治家」では「気骨のリベラリスト、混迷の時代に石橋湛山に学ぶべきことは多い」と紹介。また昨年の11月の所信表明演説では、「国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り、おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合わせるべきことについては相互に協力を惜しまず、世界の進運に伍していくようにしなければならない」―と野党に協力を呼び掛けた。これは半世紀以上も前の湛山の施政方針演説の一部で、相当入れ込んでいるという感じだ。
共同代表の岩屋外相は、「トランプ大統領の米国ファーストは、新しい資源外交の時代に逆戻りする感じだ。一方BRICSやグローバルサウスなど新興プレーヤーの動きは、米国なき世界をにらんだ胎動とも見られる。激動する世界へ日本はどう対応すべきか、思案した末に思い付いたのが石橋湛山研究だった」という。
湛山研究会が今注目しているのが、湛山の「小日本主義」と経済に対する考えだ。湛山はこの中で「日本は4つの島で自由市場を中心とした通商国家を目指し、植民地は放棄すべきだ」と主張した。政府や軍の要人はびっくりして飛び上がったのではないか。
湛山を知るために当時の歴史の雰囲気を紹介すると、日本は明治維新で国際舞台に登場するなり、「欧米に追い付き追い越せ」を掲げた。日清戦争(1894∼95年)、日露戦争(1904~05年)に勝つと、アジアの植民地獲得に乗り出す。そして1914年からの第一次世界大戦が多くの犠牲者(3600万人)を出して終わると、厭戦機運が盛り上がり、ワシントン海軍軍縮条約が焦点になる。湛山はこうした動きをにらんで筆を執った。1921(大正10)年7月、東洋経済新報の社説に、「一切を(す)つるの覚悟」と「大日本主義の幻想」を発表する。この中で、朝鮮(当時)、関東州(現中国東北部)、台湾の植民地の放棄を主張した。「武力で他国を制圧することで国を富ませるという考えは必ず破綻する。植民地の青年たちに愛国心が芽生えて、これが反日運動になる。日本は植民地を放棄して4島の中で外交貿易に力を入れて、国を富ましていく道筋をつけるべきだ」と主張した。この指摘なかなか鋭い。
湛山はそのうえで、「国家の持続的可能な発展とはどこの国とも貿易を盛んにし先端技術を研究開発して科学技術を活発化することに重点を置くべきだ」と主張し続けた。実は戦後の日本経済成長は植民地なしで4つの島と活発な通商で実現している。石破氏は湛山の先見の明を称賛しているところだ。
もう一点、石破氏が注目しているのは、湛山は経済産業と国民生活を重視していることだ。政治の本領は「貿易や産業を活発にして、国や国民を富ますことだ」と言っている。軍事、経済や産業は大事だが、国民生活を豊かにすることは、もっと大事なことだ」と確信しているようだ。石破氏が湛山の真骨頂だと評価しているのが、湛山流の「経世済民(世の中を治め、民の苦しみを救う)」である。石破氏は湛山政権について「経世済民を体現した。短い任期(65日、病気で退陣)に大きな業績を挙げた内閣だった」と最大級の評価をしている。親子以上に年が違うのに、二人の価値観が似ているのは生い立ちにも関係するのかもしれない。
両者は、ともに宗教の雰囲気中で育っている。湛山は山梨県の日蓮宗の古刹で幼児から厳しく育てられた。一方の石破氏はプロテスタント4代目のクリスチャンだ。両者に接した関係者によると、二人とも似た風姿風貌だったといっている。権力の行使については、安倍晋三元首相は、権力を振り回しているように見えたが、湛山も石破氏も抑制的に使うものだとはっきり言っている。
日米関係について、石破氏は「一方だけ得をするような関係はサステナブルではないと(トランプ大統領も)分かっているはずだ」と言っている。湛山は「いやなことこそ言い合って共通の利益を見つけ出していく」―という考えだ。
最後に参院選敗北の責任をめぐる党内抗争にふれると、国民はきちっと税金を納めているのに、裏金問題では政治家には、さまざまな特典や恩典があることがはっきりしたことだ。引き続いて、疑惑を生む温床を一掃するなど、党改革や政治改革が欠かせないだろう。
「男子三日会わずんば刮目して見るべし」という有名な古語がある。党内抗争を乗り切って面目一新、国民の不安や不満を取り除き、人々を豊かにする有言実行型の舵取りを見せてほしいところだ。
栗原猛(元共同通信社政治部)