安倍政権まもなく半年 ~それは幻影なのか実像なのか~

 安倍政権が6ヶ月目に入った。 そして、そこまで5ヶ月余り東京証券取引所でぐんぐん上昇していた日経ダウが5月23日暴落した。その日の夜、東京・丸の内の中華料理店で著名なエコノミストを囲んで財務官僚、銀行家、ジャーナリストが小さな会合をもった。エコノミストは、アメリカの中央銀行FRBに在籍した経験を持ち、又、中国の要人ともパイプを持つ人物だった。この日は、暴落の引き金の一つ日本国債の価格急落とその仕掛人と見られるアメリカ系の投資ファンドの動き、更にもう一つのきっかけ、中国経済の不調が話題の中心だった。もし、更に円安が進んでファンドの戦略が成功すると国債価格の暴落が連鎖を呼んで大量の国債を持つ日本の銀行の経営不安、金融危機に繋がる恐れも現実味を帯びて来たという警告がエコノミストからあった。このシナリオは、日本の国際収支構造からみて有り得ないとされていた事態だ。ファンド側に付け込まれるスキが生まれた。
安倍政権は発足間も無く財務省では傍流と見られていた黒田東彦氏を日銀総裁に抜擢した。黒田氏は、巨額のマネー供給がデフレを止めてインフレを呼び、それが経済成長をもたらすという信念の持ち主で、安倍首相の思考形態にピッタリと嵌ってしまった。黒田日銀が市場に供給したマネーはまず、株式市場に、そして、外貨ドル買いへと向かい株の暴騰、急激なドル高・円安の局面となった。デパートでは高級品が売れ、東京都心では高額のマンションが売れだした。確かにインフレが始まったようだ。
しかし、ふと気がついてみると、生活実感として経済成長がスタートしたとはとても思えないという庶民が多いのではないか。夏のボーナスは自動車業界を除くと多くの業界が1%以下、もしくは減少となった(経団連まとめ) 又、円安で伸びるはずの自動車輸出は、相変わらず減少している(自動車大手8社の4月実績) そして、貿易赤字も拡大している(財務省国際収支統計・2012年度末) こうした中、安倍政権は成長戦略を打ち出していると主張する。しかし、成長の実績は勿論、その実像すら未だはっきりと国民にみえてこない。
 さて、安倍首相は、経済政策・デフレ脱却と並んで「強い日本を取り戻す」として憲法改定、外交安保など政治課題にも果敢にとりくんでいる。高い支持率(恐らく株価高騰と連動している)を背景に当初から強気の発言を繰り返した。しかし、そこに浮かび上がるのは、本質を見ない首相の”軽さ”ではないだろうか。
その一つ、憲法96条の改定を先行して実行するという主張は、アメリカを始め憲法は簡単には変えないという先進民主主義国家の常識に反するものと国際的にも理解され、批判をあびた。そして、北朝鮮を抑え込む上で重要なパートナー、中国・韓国との外交交渉でキーポイントとなる歴史認識問題では外交音痴ともいえる”幼さ”をさらけ出した。国内事情を優先し、閣僚の靖国参拝を正当化する発言を繰り返した。更に、かつての太平洋戦争を巡って「侵略の定義は決まっていない」という安倍首相の国会答弁は、ついに、かつて交戦国だったアメリカ議会にまで批判の声をあげさせてしまった。
今回の慰安婦問題ではさすがに、首相は一線を画そうとしているが「安倍政権は右翼のナショナリスト政権だと思われている」(アーミテージ元アメリカ国務副長官5月30日・東京の講演)という声さえ出始めた。安倍首相は、政権が発足すると間も無く政府専用機を”駆って”世界をかけめぐり米露などの大国は勿論、ミャンマーなどの発展途上国を訪問して日本を売り込んだ。更に国内でも、殆ど休む日もなくいわゆるパーフォーマンスに熱心だ。国民のために働き、国民の中に入って親しみ易い首相というイメージ作りも決して悪いことではない。株価急騰もあって、何か明るい事が始まるという”気”を創り出した。
しかし、株価はどうやら幻影だったようだ。そして、経済成長という実像は見えない。そして、強い日本は、下手をすると国際的に日本を孤立させかねない。
 安倍政権は、華やかにスタートしたが、株価に象徴されるような何か幻を見ているような危うさ、そして、厳しい闘争が繰り広げられる国際社会にあってはその幼さも目立つ。やはり国民は政権がしっかりとした実像を見せて進むことを望んでいる。 陸井 叡(叡Office代表)

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