「国際卓越研究大学法」は世界トップレベルの大学づくりにつながるのか

 イノベーション(技術や社会の革新)の駆動力となる世界トップレベルの大学づくりを目指す「国際卓越研究大学法」が5月18日、参院本会議で与党などの賛成多数により可決され成立した。
 政府が拠出する10兆円規模の大学ファンド(基金)を運用し、運用益から2024年度以降、数校の大学に年数百億円ずつを配分し、優秀な若手研究者が活躍できる研究環境の整備などを支援する。科学技術を成長戦略の柱と位置づける岸田政権は、この大型助成制度を国内大学の研究力を世界レベルに高める切り札と位置づけている。

 この制度は、国際卓越研究大学を「経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学」と規定し、選定の基準を設けている。国際的に卓越した研究成果を生み出していること。先端的な研究環境が整備されていること。財政基盤を有し、年間3%の事業成長が達成できること。など7項目が挙げられている。
 米欧ではトップ大学の研究成果から、人々の生活を一変させる製品やサービス、新たな学問領域などが生み出されている。ハーバード大学やエール大学など米国の名門私立大は3兆~4兆円を超す規模のファンドを運営している。また、英国でもオックスフォード大学やケンブリッジ大学は数千億円規模の基金を運営する。政府は米英の大学の基金を活用し研究力を強化する取り組みをモデルとして、同様な大学ファンド制度によって資金の新たな循環を生み出し、大学の成長を目指そうとしている。
 今後、支援を希望する大学からの申請を、文科省や総合科学技術・イノベーション会議(CSTI、議長・岸田首相)で検討し、23年度までに選定する。大学ファンドの運用益は年3000億円を目標としており、その実績に応じて支援対象を段階的に拡大するという。

 一方で、この制度を巡っては様々な指摘が挙がっている。選定される大学は、既に独自基金や先端研究基盤を有する一部の有力大学に限定されるのではないか。そのため、大学間格差は一層の拡大を招くこと。また、閣僚や企業幹部、学者らで構成されるCSTIが選考に関与するため、研究への政財界の介入が進み、利権の温床となること。事業規模の成長を求める仕組みは、特許で「稼ぐ」ことを重視する経営方針に繋がるため研究成果の公開性・公共性を損なうこと。事業化収益に繋がりそうな研究課題の選択と資金投入によって研究の自由度が下がること。などの懸念である。真の発見とイノベーションを生むためには、大学の特色や専門分野の多様性を維持しながら、研究者による自由な発想で研究が行われることが必要ではないか。

 さらに、運用益を支援にあてる仕組みには見通しが不透明な部分もある。米国の大学においても、研究費の多くが政府の資金で支えられている。日本の研究力を高めるには科学研究費補助金(科研費)や将来の研究を担う大学院生への奨学金を増やす施策の方が有効ではないか。また、資金の使途も重要だ。研究だけでなく奨学金などの教育活動にも活用することで、優秀な学生が集まり大学ランキングが向上する要因になるとの指摘もある。

 10兆円の大学ファンドは世界でも類をみない規模である。こうした取り組みが研究力に結びつくのか、効果や課題を検証しつつ、有効な手段を講じていくことが重要だ。

アカデミア創薬研究者 福地俊

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