シリーズⅥ 「コロナ後5年」中国の電気自動車開発と日本メーカー

 脱炭素への世界のCO2排出量で約2割を占める自動車業界への圧力が高まっている。一方、株式市場ではEVのトップ企業、テスラの株式が高騰し、既存自動車メーカーでもEVへの取組みが進捗しているGMやVWなどの株価が上昇している。EVを一つの回答とみていることになる。

 世界の自動車メーカーをEV化へと走らせたのは中国だ。中国の自動車市場は昨年も2531万台と世界最大だ。ところが、市場と技術を交換すると名打った合弁政策では国有企業が技術を学び切れなかった。どうしたらよいのか。その解はEV化にあると旗を振ったが科学技術部の万鋼部長だ。

 中国は、EV化の狙いの中心をEV用の電池で主導権をとることと位置づけ、事実上補助金を与えられた国産電池メーカーの電池を使わなければEVが生産できなくした「NEV規制」を18年に導入した。この規制で誕生したのが世界1のEV用電池メーカー、CATL(寧徳時代新能源科技)だ。EVメーカーの比亜迪(BYD)も電池でも大手であり、太陽電池パネルで天下をとったのと同じような状況になっている。

 バイデン政権は2月に「EV電池」を「半導体」などとともに国産化主要4品目と位置づけ、中国に依存しない調達体制の構築を指示したが、GMはLG、フォードもSKと、いずれも韓国メーカーと組んだ。電池はEVコストの3~4割を占めるとされるが、リチウムイオン電池は量産化の時代に入り、7割近くを抑えた中韓メーカーが主導権を握ったことになる。

 そこでEUでは17年に電池自給計画「欧州バッテリーアライアンス」を打ち出した。その成果の受け皿になっているのが、テスラの調達部門にいたピーター・カールソンによって設立された北欧のスタートアップ、ノースボルトだ。同社がスウェーデン北部に建設している大型工場は水力発電の電力を使っていることから温暖化ガス排出の少ない電池が「売り」だ。21年、年間16ギガWhの能力で量産開始したが、欧州メーカーが調達を中韓から振替えることから2024年までの生産能力拡張計画は目白押しだ。

 EV+PHVの2020年の世界販売台数は、IEAによれば、約300万台だったが、地域別にみると、欧州での販売は前年比41%増の約140万台と、9%増の約120万台の中国を初めて抜き、世界最大の市場になった。米市場は微減の約30万台だったが、日本でのEV・PHVの販売は、欧州と中国が大きく伸ばすなか、3万台弱と17年の半分ほどに減少した。

 コロナ禍の不況の中、なぜこれだけEVの需要が伸びたのか。欧州の消費者のディーゼルへの失望という要素もあったが、需要を後押ししたのは、EUが新型コロナ対策の目玉としてEV普及を景気浮揚策の有力な手段として位置づけ補助金をつけたからに外ならない。たとえば、フランスでは最大7,000ユーロ(約90万円)に増額し、ドイツでも最大9,000ユーロに増やした。

 では、補助金がなければ、EV需要は伸びないのか。こうした中、テスラがEVの上級車で収益が挙げられることを証明した。テスラの時価総額がトヨタを抜き、自動車業界で首位に立ったのは20年7月1日のことだ。それはまさに、テスラが、北米で「オーバー・ジ・エア(OTA)」方式で販売する全車種で運転支援機能〈オートパイロット〉のオプション料金設定を8,000ドルへと一気に14%引き上げ、補助金がなくともEVメーカーが成立し得ると市場が認めたのだ。

 そして、低価格帯でも上汽通用五菱汽車が20年7月にバッテリー容量9.3kWh、3万元という廉価で〈宏光ミニEV〉を発売し、21年1~3月ではテスラの「モデル3」の中国での販売台数を抜いた。ガソリン車より安い約50万円まで価格を下げられたのは機能を徹底的に絞ったからで、国内では「EVを農村に」の切り札になる一方、リトアニアを初め海外進出策を開始している。

 開発コストからして自動車大手は格安への挑戦は困難だ。VWが〈ID.3〉を〈ゴルフ〉に代わるEVの戦略車と位置づけ、25年に世界販売の4分の1に当たる300万台のEVを販売する計画を発表している。EV量産の鍵を握るのがクアンタムスケープと共同開発中の固体電池の開発だ。小型化の一方、航続距離を2倍近くに引き上げられるからだ。

 だが、固体電池でトップを行くのはトヨタ自動車だ。同社は21年中にも試作車を発表し、早くとも24年というドイツ勢、半固体を投入するというテスラを牽制する。

 EVが稼げる時代へ入ったことは確かだ。だが、一挙にEV化が進むわけではない。中国ではいつまでも補助金政策は続けられないと削減した。そもそも石炭発電が多い中国では、EVが環境にやさしいとは言えない。NEVでは、エコカーリストからHVは排除されたが、最近になってHVをリストに加え現実に対応した。欧米でも自動車の環境規制の主流は今後自動車メーカー別に燃費の平均値を規制する「CAFE」と呼ばれる方式へと誘導されよう。そうなれば、まだまだHVの出番があるということになる。

 30年にEVや燃料電池車(FCV)販売を200万台にする計画を掲げるトヨタの見方が一つの標準とみられるようになっている。  
高橋琢磨(元野村総合研究所主任研究員)

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