黒田バズーカの終わり? ~日銀の検証を”検証”する~

先月(9月)8日、東京・東銀座のビル最上階の会議室。慶應義塾大学特別招聘教授 白井さゆり氏とジャーナリスト、金融関係者など10数人のランチミーティングがあった。と言っても、夫々が近くのコンビニなどでサンドイッチやおにぎりを買って先ずは部屋で腹ごしらえをすませる。頃合いを見計らって、司会が「では」と白井氏の発言を促した。
白井さゆり氏は、実は今年の3月31日まで日銀金融政策決定会合の審議委員の1人だった。 その日銀は、今年1月29日、サプライズの一つとしてマイナス金利を導入。その”功罪”を検証する会合が9月20日と21日に予定され、対応も公表する事になっていた。白井氏は、審議委員としてマイナス金利導入に反対票を投じた事が知られており、ランチミーティング会場は一足早く”検証”を行うという雰囲気だった。
「私はマイナス金利に必ずしも反対ではありませんでした。でも、もし、導入するならテーパリングを合わせて実行すべきだと主張したのですが、賛成を得られませんでした。」と白井氏は語り出した。”テーパリング”という一言がよどみなく彼女の口から出た事に金融関係者の1人は驚いた。テーパリングとは、今、日銀が実行している国債の大量購入の縮小を意味するからだった。
黒田東彦日銀総裁は、2013年4月の就任直後から”クロダバズーカ”と言われる大胆な金融緩和を実行、具体的には、国債の”異次元”大量購入を開始して、インフレ率年2%を2年で実現すると宣言した。
だが、既に、2年はとうに過ぎ去り、3年余りが経過した今年8月の消費者物価の上昇率も2%には程遠い有様だ。又、”クロダバズーカ”の直後はグングン上がった株価も、又、一時急激に進んだ円安も元へ戻りつつある。更に、これまで黒田日銀が次々に打ち出したサプライズも、このところの株安、円高を止め切れる効果はないようだ。特に、1月に登場したマイナス金利は、金融関係者を中心に悪評さくさくという受け止め方だ。
白井発言から間もなく、先月20日-21日 日銀金融政策決定会合でマイナス金利を含めて検証結果が議論され、対策が打ち出された。対策は日銀特有の多くの修辞句を用いて、いわば厚いオブラートに包まれて説明されたが、ポイントは、黒田日銀がこれまで3年半余り続けてきた”異次元”大量国債購入を見直すというものだった。これを裏付けるように先月30日の市場で、日銀は5年-10年の長期国債の購入を減らした。ささやかにだがテーパリングが行われた。この日「ステルス・テーパリングだ」と外資系の証券会社がレポートを書いた。地上のレーダー網をかいくぐって、気付かれないように、こっそりと進む米軍のステルス戦闘機をイメージしているらしい。
2008年リーマンショック後の不況対策として主要国の中央銀行が、国債の大量購入などの金融緩和を進めた。だが、各国とも、もし国債価格が暴落すると中央銀行がそのまま巨額の損を抱えこむ事を警戒して、例えば、アメリカの中央銀行Fedは昨年からテーパリングに入った。中央銀行が持つ大量国債の重しから逃れるいわゆる”出口戦略”を探り始めていた。
こうした中、依然として、国債の”異次元”大量購入を続ける黒田日銀の”異様”さは目立っていた。結局、今回、サプライズの効果も殆ど認められない中、日銀はこれまでの金融緩和路線を見直さざるをえず、テーパリングに踏み切ったようだ。
テーパリングによって、日銀は今のところ長期金利を0.1%/年程度に維持して行けるとしている。長期金利操作によって金融緩和の効果の維持も図るという。だが、中央銀行は短期金利の操作には慣れているものの、長期金利をコントロールできた経験を持つ中央銀行は、今のところ、殆どないというのが世界の常識だという。
主要国の中央銀行の中でも、抜きん出て巨額の国債を購入してしまった日銀に、これから先の出口戦略は見えていない。
陸井 叡(叡Office)

 

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