ミニゼミリポート「香港デモとSNS」

 2019年12月4日、三田キャンパスにおいて2019年度最後のミニゼミが開催され、「香港デモとSNS」を題材に、ジャーナリスト8名、研究所所属の教授2名、学生7名が熱く議論を交わした。ジャーナリストから70年代安保の頃の慶應の学費値上げ闘争のお話を伺い、学生は日本の学生の社会運動に対する心境や現状を報告し、香港デモとの比較を行ったり、SNSの果たしている役割について検討したりした。

 香港デモとは、2019年3月に提起された「逃亡犯条例」を巡る香港市民の一連の抗議活動を示す。2019年10月に条例が香港政府によって撤回された今も、学生をはじめとする多くの市民は「普通選挙の実施」「独立した調査委員会の設置」「デモ参加者の逮捕撤回」「デモにおける警察の暴力の撤回」を掲げ、2020年1月現在も大規模な抗議活動を行っている。

 ミニゼミの討論において筆者は二つの部分に非常に関心を持った。 

 第一に、社会運動におけるSNSの役割がこれまで以上に進化し、かつフレキシブルになっているということだ。SNSの登場が、近年の社会運動における大きな転換点となったことは討論の中でも共有された。一例として、2010年のアラブの春が挙げられるだろう。SNSを使えば、どこにいても、デモの呼びかけと時間と場所の伝達を行うことができるため、非常に画期的なアイテムであると言える。香港デモでは、SNSの役割はさらに変化を遂げている。これまでの海外のデモなどで用いられ、多くの香港人にも利用されているFaceBookやWhatsAppが政府の強い監視下に置かれ、従来のコミュニケーションが取れなくなっている。そこで、若者たちを中心に今は、ゲームアプリ「ポケモンGO」や出会い系マッチングアプリ「Tinder」を使ってコミュニケーションをとり、デモを組織していると学生から報告があった。本来はいずれも、親しい人々の会話や、不特定多数に対する呼びかけには使用されないアプリである。両アプリとも不特定多数が他者の位置情報を知ることができることが、今回のデモに用いられている大きな要因であると筆者は考えている。いずれにせよ、SNS規制は、政府と市民のいたちごっこであるから、今後使用されるSNSがどのように変化していくのか、引き続き注目してゆく必要があるだろう。

 第二に、現代の日本の大学生の多くは、香港で抗議活動を続ける学生の気持ちを理解できないということである。「日本には今、差し迫った脅威がないから、学生は社会に目を向けることができない」という発言が、討論の中で学生の中からあった。筆者は、北海道の片田舎から昨年上京してきた、どちらかと言えばバンカラな学生であり、「投票プロジェクト2019」という若者の投票率UPのための団体などに所属し、活動している。だからこそ、暴力行為の肯定は断じてできないものの、社会に対する不満をデモという形で表現している香港の学生たちに共感できる部分があるのだ。しかし、多くの学生にその感覚はなく、彼らの行為が不思議に思えるのだという。また、自分でも珍しい存在の大学生であることは自覚しているが、それでも、昨年の参院選の際、周りの塾生の関心の低さに驚かされたことを鮮明に覚えている。この原因は、学生というより、社会の構造にあるのではないだろうか。例えば、就活ルールの撤廃による就活の早期化は、学生が学問に集中できない環境を作り出していると言えるだろう。1.2年生の内に日吉で一般教養を学び、いざ三田に来て専門分野を学ぼうとしても、就活のためのインターンシップなどが始まり、やむを得ず授業やゼミナールを欠席することがあると聞く。学問に集中できない環境では、社会に関心を向けることもできないだろう。また、就活では皆がリクルートスーツを着て、黒髪で説明会に参加したり、面接を受けたりする。不文律で「普通」であることを求められるからこそ、「道から外れている」とみなされている社会運動に参加しにくい一因もここにあるのではないだろうか。一方、学生であることは、社会に目を向けるチャンスでもあると言える。例えば、今や学生の半分が使用していると言われる奨学金や近年話題のブラックバイトなど、社会に違和感を覚える機会も少なくない。日々の生活からヒントを得ることで、香港の学生たちの気持ちを多少は理解することも可能なのではないだろうか。

 次回、2020年度最初のミニゼミは5月13日水曜日(テーマ未定)を予定している。

松山泰斗(法学部政治学科2年)

写真:Studio Incendo 詳細 CC 表示 2.0

Authors

*

Top