番組アーカイブの活用と大学教育

「テレビでお涙頂戴のドキュメンタリーは見たことがあったが、戦争をテーマにしたこうしたドキュメンタリー作品は、今まで見たことがなかった。」「ラジオ番組を耳で集中して聴く経験は初めてで、すごく新鮮だった。」―スマホやネットを通じて日々多くの映像に接している今の大学生が、テレビやラジオの番組を取り入れた講義を聴いて、レポートに書いた感想の一端だ。2019年11月9日に東京・四谷の上智大学で開かれた「番組アーカイブ活用と新たな展開2019」という公開セミナーで紹介された。
セミナーは、放送番組を大学の授業で活用している実践例を報告し、学生への教育効果や番組活用に向けた課題について議論していこうと、番組アーカイブ施設である公益財団法人放送番組センターと上智大学メディア・ジャーナリズム研究所が主催した。
 放送番組センターは、放送法に定められた、我が国唯一の公的な放送番組のアーカイブ施設で、横浜にある放送ライブラリーには、テレビとラジオをあわせて3万本の番組が保存され、このうち2万1000本が一般に公開されている。3年前からは、施設外利用もできるように権利処理をした番組をネット送信により、大学の授業や図書館での視聴、上映会への活用を本格化させている。
通常、放送された番組を大学の授業で使おうとすると、教員が自ら録画して使うか、放送関係者から直接許諾を得て番組を別途入手するか、市販されているDVD等から探したりするしかなく、そう簡単なことではない。それだけに、セミナーには、放送番組を授業やゼミに活用することを考えている大学の教員や放送番組の教育活用に関心のある放送関係者、それにメディアを専攻する学生など、70人余りが参加した。
 セミナーは今年が3回目となる。上智大学の教授で、放送番組センターの理事でもある音好宏教授の司会により、前半は、1人持ち時間20分の4人の登壇者による報告が、後半は、およそ1時間にわたってのパネルトークが繰り広げられた。
登壇者には、いずれも放送番組センターの番組を活用した授業に取り組んだ駿河台大学メディア情報学部の今村庸一教授、早稲田大学文学学術院の鳥羽耕史教授、椙山女学園大学文化情報学部の太田智己講師、の3人の先生方と、さらに放送局からも一人、番組の取材・制作のデスクが登壇者に加わった。
 前半の報告では、今村教授から、東日本大震災を扱った地方民放局と東京キー局の2つのドキュメンタリー番組を映像メディア論専攻の学生に視聴させ、災害報道を映像で検証させる授業が紹介された。地方民放のドキュメンタリーには、ローカルでしか放送されない映像や内容が含まれている。学生からは「東京にいて、全部わかった気でいた。ローカル放送にはローカル放送でしか見られない素材がたくさんあり、番組というのはいろいろな角度から見なければならない、ということがよくわかった。」という反応があり、番組を多角的に考察させるという授業の目的はおおむね達成できたとのことだった。
 鳥羽教授は、「日本近代文学とマスメディア」という授業で、安部公房の多岐にわたる文芸活動の中で、ラジオドラマとテレビドラマに焦点をあてて、講義をした。講義の中で番組を上映したほか、学生は、予習、復習のために、大学のコンピュータルームで、個別に視聴もした。放送番組センターで権利処理をされた、あわせて7本の民放とNHKの安部公房のドラマ番組を授業に利用できたことで、文字を読んでいるだけではわからない、俳優の演技とか当時の時代背景がわかる実際の映像、そういうものを学生に見せることができて、非常にメリットがあったと、指摘した。
 太田講師は、「メディア情報分析」という授業で、湾岸戦争をテーマにしたNHK番組など、あわせて5本のドキュメンタリー作品を活用した。テレビ番組を教材として出すと、学生は高いモチベーションで見てくれるので、授業においてたいへん重要だが、こうした番組を、教員個人で、収集して活用することには限界があるとして、番組送信による放送番組センターの大学教育への貢献を評価した。
 後半のパネルトークでは、教材としての番組活用の利点や学生の反応をめぐって、さらに議論が続いた。メディアに関心の深い学生からは、昔のテレビはいかに自由だったかと、驚きの声が聞かれたとの発言をきっかけに、テレビの現場が1980年代からちょっと縛りが厳しくなってきたことを、授業で過去の番組を見て、学生が肌感覚として感じているのではないか、と今のテレビのありようについても意見が交わされた。
また、番組アーカイブの充実や社会的意味にも議論が及んだ。埋もれている映像の発掘や映像があっても付随する資料を探すのが不便であるといった課題が指摘されたほか、日本は欧米に比べてアーカイブが遅れており、それだけに放送番組センターは貴重な場所であり、アーカイブは文化の重要な財産という旗を立てていくことが大事だとの認識が示された。
 放送番組センターでの大学教育の番組活用の取り組みは、これまでに20大学で128本の番組が活用され、受講した学生数は1100人となった。徐々に広がっている背景の一つは、活字や図、写真だけの講義では得られない教育効果を期待してのことだろう。すでに放送番組センターには、高校や専門学校からも、番組を活用したいとの声が寄せられ、それに応えるべくあらたな検討も始まっている。過去の放送番組の教育への活用は、さらなる広がりを見せそうだ。

 松舘晃(放送番組センター常務理事)

Authors

*

Top