<シネマ・エッセー> アイリス・アプフェル! 94歳のニューヨーカー

トルーマン・カポーティ原作のニューヨークを舞台にした映画「ティファニーで朝食を」のオードリー・ヘプバーンは、大きなサングラスに最先端のファッショナブルな衣装をまとって、実に魅力的だった。その原型を類推させるような印象を与えるのが、このドキュメンタリー映画の主人公、アイリス・アプフェルである。

1921年8月、ニューヨーク州生まれのアイリスは、50年代からインテリア・デザイナーとして活躍。夫カールと設立したテキスタイル会社が成功し、歴代大統領からホワイトハウスの装飾を任され、アメリカのファッション界で注目され続けて来たという。

映画は2005年にメトロポリタン美術館で開催された彼女のファッション・コレクションの展覧会が記録的な観客動員で評判になったシーンをはじめ、今なおアメリカのファッション業界やインテリア・デザインで現役として活躍を続ける姿を多彩に追い続ける。

思い切った色とデザインの装飾品や、彼女が選ぶユニークな色と柄のファッションとの取り合わせは、我々男性の素人目にも、「先端的でありながら、似合ってるな」と感心した。

そして、愛用の大きなメガネとの取り合わせも千変万化して面白い。どこかで見たと思ったら、人気アニメ「シンプソンズ」のキャラクターにもなっている。
そして、映画の中でのファッション・ショーやパーティ、買い物の現場でインタビューを受ける彼女の「語録」がなかなか面白い。

『人の目を気にするのではなく、自分のために服を着る。』

『ジャズのように、即興であれこれ試すのが楽しいの。』

『私は、大きくて大胆で派手なものが好き。死んだ人を目覚めさせるようなインパクトがほしいのよ。』

アイリスは世界中へ買い物に行き、カメラはそれを克明に追うのだが、気に入ったアクセサリーや織物、民芸品などがあると、値段交渉では中々したたかだ。巧みな話術とビジネス感覚で巧みに値切るのだが、曰く。

『値段の交渉には美学があるの。むやみに値切るわけではない。値切らないと逆に失礼な場合があるのよ。「50ドル」と言われて50ドル払えば店主は落ち込むかも知れない。「言い値を払うバカが相手なら、150ドルと言うべきだった」と。』

決して美人ではないのに、バツグンの色彩感覚と、取り合わせの妙で上品さを生み出す感覚・・・高齢化社会を生きる上で、幾つかのヒントを与えてくれるファッショナブル・ドキュメントである。3月5日から、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー。         
磯貝 喜兵衛(元毎日映画社社長)

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