写真エッセー 長岡まつり大花火大会を観に行った

 今年も大輪の花が夏の夜空を彩りました。コロナ禍で中止になり4年ぶりに再開された花火大会もあり、大勢の見物客で賑わいました。花火大会の代名詞ともいえるのが隅田川花火大会です。江戸時代、隅田川で行われていた水神祭(通称「両国の川開き」)に合わせて開催された花火大会がルーツで、日本最古とされています。
 その花火大会と江戸時代に肩を並べたのが、私の郷里・広島県尾道市の「住吉花火まつり」です。全国的には知られていませんが、毎年、市の人口の3倍近い約30万人の観客を集め、広島県内最大級の規模を誇ります。


 「住吉花火まつり」は、江戸時代に商売繁盛、海上交通の安全を祈願して海産物問屋の旦那衆が始めたと言われており、「東の両国、西の尾道」と称されるほどだったと言われています。尾道で生まれ育った私は、花火大会当日、毎年のように海辺にある親戚の家に行き、目の前の海に浮かべた台船から次々と打ち上げられる1万発を超える花火を見ては歓声をあげていました。
 そんな花火大好な私が、以前から観たいと思っていたのが日本三大花火大会のひとつとされる「長岡まつり大花火大会」です。団体ツアーで行くことにし、各旅行会社のパンフレットを比較して選んだのは、関西の旅行会社の「長岡まつり大花火大会と飛騨高山・白川郷2日間」でした。合掌造りの集落で有名な岐阜の白川郷にも行ってみたかったので、それが決め手になりました。
 8月2日、東京駅の上越新幹線乗り場は、長岡の花火大会を目指す団体旅行客でごった返していました。団体客用の臨時便が出るほどで、花火大会人気の凄さを早くも見せつけられました。越後湯沢駅からバスに乗り換え新潟県第2の都市、長岡市に向かいました。途中、団体旅行お決まりの土産物店などによって時間調整して、現地に着いたのが花火大会開始の2時間前でした。団体旅行用バスで埋まった専用駐車場からは徒歩で会場に向かいました。日本一長い信濃川の土手には、会場に向かう人の波が延々と続いていました。約30分歩いてやっと会場に到着です。
 両岸の河川敷には、15万5千人分の全席有料の観覧席が設けられていました。私たちは、劇場で言えば、かぶりつきに近いマス席に陣取りました。マス席は、180センチ四方の板敷きで、定員が6名、足を伸ばせず少し窮屈でした。

 花火の打ち上げ開始は夜7時半、そこから約2時間、「ヒュ~」と音を鳴らして夜空に上がっていく光の筋をひたすら追い続けました。今年の目玉は、音楽とともに打ち上げられる5つのミュージック花火や、打ち上げ幅が約2キロにも及ぶ中越地震からの復興祈願花火「フェニックス」などで、「正三尺玉(しょうさんしゃくだま」」という超大型花火も見ものでした。直径が90センチ、重さが300キロあるというこの花火、上空600mまで打ち上げられて約650mに広がるという触れ込みでしたが、打ち上げ会場が遠くに設営されていたため、それほど大きく感じなかったのが残念でした。
やはり花火は、観る位置が大事です。打ち上げ会場に近いと確かに迫力があります。視界いっぱいに大輪の花が広がり、地響きのような振動と爆音も肌で感じられます。しかし全体像がつかめません。打ち上げ会場から直線距離で60㎞離れた佐渡島の公園からも見えたという仕掛け花火「フェニックス」にいたっては、あまりにも広大でほんの一部しか見ることができませんでした。
 長岡花火大会のようなスケールの大きい花火は、少し引いたとところから観るのが正解でした。何しろかぶりつきの席でしたから、花火が上がる度に顔をあげることになり本当に首が疲れました。


 花火大会を十分に楽しんだ後帰るのが大変でした。15万人余りが一斉に移動するのですから無理もありません。人混みをかき分け、団体旅行用バスの駐車場までやっとのことでたどり着いた後は帰りの車による渋滞が待ち構えていました。宿泊先の富山県砺波市のホテルに着いたのは午前2時を過ぎていました。翌日の飛騨高山・白川郷観光は、睡眠時間4時間で炎天下を歩き回る過酷な旅になりました。
 ところで、花火大会の有料席の導入は今や主流となりました。帝国データバンクが、この夏開催の全国の花火大会のうち、観客数が10万人以上の106大会を調べたところ、7割が有料化され、有料席の8割がコロナ前から値上がりしていました。背景には打ち上げ花火の多くを占める輸入花火の価格上昇や運営コストの増加があります。4年ぶりに開催された「びわ湖大花火大会」は、有料エリアに沿って高さ4m、長さ2㎞の「しゃへい幕」を張って物議を醸しました。有料席の高価格化も進んでおり、小田原の花火大会ではベッド2台とローテーブル付きのタイプで30万円(定員2名)の席も登場しました。有料席の導入や値上げの動きはさらに広がるとみられており、花火大会が高嶺の花になりかねません。
山形良樹(元NHK記者)

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