G7広島サミットと日韓関係

1)広島でのG7サミット

 ロシアによるウクライナ侵攻は今なお続く。和平が戻る兆しはない。そのウクライナで核の脅威が高まるなか、G7サミットが被爆地広島で開かれた。

 日本を含む主要7か国、招待の韓国、オーストラリア、インドなど8か国、そしてウクライナのゼレンスキー大統領も電撃参加した。サミット期間中、ウクライナ情勢をはじめ、核軍縮、対中政策を含む外交・安保、経済、食料、環境など、国際社会の直面する幅広い課題について、9つのセッションで討議が続いた。主要7か国と招待国らの首脳、ゼレンスキー大統領が原爆資料館を視察し、慰霊碑に献花するという、「歴史的サミット」となった。

 サミットの成果は一部で評価が分かれる。核軍縮に関する「広島ビジョン」は、核保有国を配慮してか、条件付きでの核軍縮を想定し、被爆者らから批判の声が出た。一方、初日の「ウクライナに関する首脳声明」は、ロシアの侵攻を「明白な国連憲章違反」と非難する。また、「ウクライナの包括的、公正かつ永続的な平和」を実現すると強調している。2日目の「首脳宣言」は英文40ページにも及び、特筆すべき点がある。まず、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化する」と明記し、「核兵器のない世界」に向けて取り組む姿勢を示す。また、「グローバルサウス」とも呼ばれる新興国や途上国を支援・強調する姿勢も明確に打ち出している。

 今回のG7サミットは、ロシアや中国などを念頭に「現状変更勢力」に対し、民主主義、正義、法の支配という普遍的価値観を共有する国々が結束・協調すべきことを確認する舞台となった。このG7サミットで韓国はどんな外交を繰り広げたのだろうか。

2)韓国が招待された意味

 今回のG7サミットでは、日本との関係改善を進める韓国が招待された。韓国ウォッチャーの筆者としては、その背景や意味に興味がわく。

 韓国のユン・ソンニョル大統領は、この5月に就任1年を迎えた。この1年、ユン大統領は民主主義や自由を重視する「価値観外交」を展開し、日米などとの連携強化を図ってきた。この3月、日韓関係を悪化させた最大の難題、徴用工問題をめぐって、韓国政府が解決策を提示した。韓国の最高裁によって賠償を命じられた日本企業に代わって、韓国側が支払うという代理弁済案だ。これをきっかけに、日韓関係が修復に向けて動きだしたという経緯がある。いわゆる「シャトル外交」も復活し、ユン大統領は今回のサミット中、岸田首相と3度目となる会談も行なわれた。ユン大統領は日米韓の首脳会談、ゼレンスキー大統領や各国首脳との会談に臨み、韓国がG7各国と同じ価値観を共有する国であることを強く示し、その存在感を見せつけるものとなった。G7が韓国を招待する背景には、中立的な姿勢が目立ってきた韓国が価値観外交を通して、日米や欧州各国との連携を強めるよう、働きかける狙いもある。

 ユン外交の背景には、そもそも検事出身という経歴から、法や正義を尊重する固い決意があるとの見方が強い。また、韓国がGDPで世界13位(IMF:2023.4月版)と、主要各国と並ぶ成長ぶりを見せ、経済力の点で先進国入りを果たしたと見てよい。ユン大統領がG7各国とともに普遍的な価値観を尊重することで、先進国としての地位を確固たるものにしたいという思いも伺える。

3) G7サミットと韓国の立ち位置

 ユン大統領の外交は、北朝鮮や中国を重視したムン・ジェイン前政権の外交を一変させた。これを象徴する発言がサミット2日目、招待国も参加する拡大首脳会議で行われた。ユン大統領は韓国の立ち位置について次のように発言した。「ウクライナでは力による現状変更が試みられ、武力による人命殺傷が行われている」「これは国際規範と法治に正面から違反する」と。さらに「ロシアの侵攻に反対する姿勢を明確にし、韓国がまさにG7と連携している」というメッセージを送るものだった。このユン外交は、韓国内でどう受け止められたのだろうか。

 G7サミットをめぐる報道・論説は、韓国では日本よりも少な目だった。そこで、韓国の立場を明確にするものとして、日米韓首脳会談に関する論評を紹介しよう。まず、保守系の中央日報は、「韓日米安保を強化、次は‘中国リスク’の管理を」と題する社説(24日)で、まず「価値外交は確実に意味がある」と評価する。続けて、「未来志向的外交の足がかり」として期待感を示す。その一方、「自由対権威主義体制に分裂した状況で、片方に過度に『オールイン』する場合…逆風を受けるリスクが伴う」と指摘する。さらに、「中国を不必要に刺激する言動は国益には決してならない」とし…韓日中首脳会談の開催カードも積極的に活用することを望む」と論じている。

 一方、革新系ハンギョレ新聞は、「‘中国失踪’が一層明確になったユン外交」と題する社説(21日)で、次のように論じている。「ユン大統領が過度に韓米日中心の『価値観外交』に外交力を集中し『中国外交』を失踪状態にさせる状況は強く憂慮される」とし、「ユン大統領は、韓国の現実を考慮した複合的な外交をという各界各層の苦言に背を向けてはならない」と結ぶ。

 G7サミットにおけるユン外交について、韓国メディアの論調は、保守系が条件付きの凝視、革新系が明確な批判と見て取れる。米中の間で曖昧な姿勢を取りつつ国益を守ると言う、これまでの「バランス外交」が付きまとっているようだ。G7サミットでの韓国外交は、先進国の一員としてあくまでも普遍的価値観に立脚するはず。韓国メディアの論理には、どうにも違和感を覚える。

 

4) G7サミットと日韓関係

 日韓関係の視点からサミット前後の動きを振り返ると、その根っこに潜む歴史認識をめぐる新たな言動が想起されよう。

 ユン大統領は3月、岸田首相と初めて会談しての閣議で、日韓関係について次のように発言した。「過去は直視して記憶しなければならないが…日本はすでに数十回にわたって我々に歴史問題について反省と謝罪を表明している」「これからは堂々と自信を持って日本と接し…善意の競争を繰り広げなければならない」と訴えた。この発言は、日本に謝罪を求め続ける韓国世論に再考を促すものだけに、革新系野党を中心に批判の声が上がったのは言うまでもない。

 これに続いて、サミットの直前に岸田首相が韓国を訪問し、シャトル外交を再開させた。岸田首相は会談で徴用工問題に触れ、「苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む」と述べた。サミットの最終日には、岸田首相はユン大統領とともに「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」を訪れた。日韓の首脳として初めての追悼となった。広島では、原爆により韓国人の軍人や徴用工ら2万人が犠牲になっている。この追悼については、革新系ハンギョレ新聞が23日付け社説で取り上げ、不満を表明している。「今回の参拝は…在日コリアンの心に少しはぬくもりを感じさせたことだろう」とする一方、「日本の植民地支配に対する公式の謝罪」の表明もなく「もの足りない」と批判している。

 歴史認識をめぐる日韓の新たな言動は、韓国の根強い対日感情のなか、今も大きな波紋を広げている。その一方、日韓関係には確かな変化も生まれている。徴用工や慰安婦問題をめぐる協議の開始、日本の輸出管理の強化に対するWTOへの提訴取り下げ、GSOMIAの通常化、旭日旗を掲げた自衛艦の釜山入港など、これまでになかった動きが相次ぐ。

 G7広島サミットは、激動する国際社会にあっても、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を強化すると宣言した。その普遍的価値観を共有すれば、日韓の間にも信頼が生まれ、連携強調も成立しよう。歴史を変えることはできないが、歴史認識の違いはいつか乗り越えられよう。

羽太 宣博(元NHK記者)

Authors

*

Top