ミニゼミリポート「根室新聞の休刊、そして復刊」

 2021年3月31日、根室市に拠点を置く「日本最東端」の地方紙『根室新聞』が休刊した。根室新聞とは、1947年1月6日の創刊以来、市政や北方領土問題、市民活動など、根室の地域に根ざした情報を長きにわたって提供してきた地方紙である。長い歴史を持つ道東報道機関の「退場」を惜しむ声は多かった。しかし、2021年11月、「根室新聞」の後継となる日刊紙の発行を目指す新会社「ネムロニュース」が設立され、根室新聞の復刊が発表された。

根室新聞社 外観

 旧根室新聞は、日中の時間帯で記事を作成し、夕刊として発行していた。発行部数のうち99%を配達によって販売しており、コンビニエンスストア等での店頭売りはほとんど行っていなかったようだ。配達は根室新聞社の社員が行っており、販売店を経由しない方法が採られていた。

 旧根室新聞元編集長の桐沢氏に取材を行ったところ、旧根室新聞の休刊の理由としては、発行部数の減少、新聞広告の減少、人手不足が挙げられることが確認できた。発行部数について、創刊当時(1947年)の発行部数が3200部であったのに対し、休刊直前(2021年2月)は2500部まで落ち込んだ。最盛期の発行部数が5000部を超えていたことも考慮すると、旧根室新聞が苦境に立たされていたことが伺える。桐沢氏は、「創刊当時の根室市の人口が約4万9千人であったのに対し、現在の人口は約2万5千人。人口減少が発行部数の減少に繋がっている。」と話した。また、人手不足も深刻だった。休刊直前の根室新聞の従業員は記者3人を含む11人。会社存続のために記者募集を行っても、応募者が一人もいないこともあったそうだ。元編集長の桐沢氏も、「休刊の決め手となった最大の原因は人手不足にある」と話した。桐沢氏によれば、「購読者の減少や広告の減少、人手不足などの問題について、解決の見通しが立たなかったため、休刊という決断になった」ということだ。

 2021年11月に根室新聞の復刊を発表したのは、新会社「ネムロニュース」である。新会社は、根室など全国各地で風力発電事業を展開する「CEF」が主体となって、根室市に設立された。CEFの鎌田宏之社長が新会社の社長を兼ねる。鎌田氏はトーメン(現豊田通商)に入社後、1992年に米国トーメン社(ニューヨーク本社財務部)に赴任。1999年にはニューヨーク大学スターンビジネススクールを卒業し、MBAを取得している。その後、CEFを設立し、代表取締役に就任した。

旧根室新聞が小ぶりなブランケット判4ページの夕刊紙であったのに対し、後継紙は通常の新聞サイズで、8ページの一部カラーの朝刊紙とする。発行区域は当面、根室市のほか、周辺の標津、別海、浜中の3町とし、将来は発行部数1万部を目指すようだ。デジタルでの配信も行うことや、月額購読料を新聞、デジタルとも各2500円にすることが予定されている。

 このような根室新聞の状況を踏まえ、2021年12月8日、「苦境に立つローカル紙~根室新聞の休刊、そして復刊~」というテーマで、2021年度4回目のミニゼミが開催された。メディア・コミュニケーション研究所所属の教授、学生、ジャーナリストが会議アプリzoomを用いて議論を交わした。

 根室新聞と北方領土の関わりについて、「“地方紙のニーズがどこにあるのか”を見極めることが重要ではないか。北方領土に関する報道が求められているのか、地域の何気ない情報が求められているのか、適切に判断することが必要である。」という指摘がされた。また、「北方領土に関する外交の問題を、ローカル紙が取材を行うのは現実的に可能なのか。」という指摘もされた。地方紙の意義の一つは、「全国紙では取り上げられない地域の情報を、地域の読者に届けること」にあるだろう。地域の人がどんな情報を求めているのか、何を知りたいと思っているのかを適切に把握することは、ジャーナリストに求められる能力であると感じた。

 また、旧根室新聞は小ぶりなブランケット判4ページの夕刊紙だったのに対し、後継紙は通常の新聞サイズで、8ページの一部カラーの朝刊紙とすることについて、「人材が少ない中で、8ページの朝刊を毎日発行することは現実的に可能なのか」と、その実現可能性を疑問視する声も上がった。しかし、これに対して「記者が少なくても、8ページであれば十分可能である」という反論もされた。その後、「そもそも新聞とは何か」というテーマに議論が展開され、「社説こそが新聞には欠かせない存在であり、社説があって初めて新聞と呼ぶことができるのではないか」という発言も生まれた。根室新聞の後継紙が、8ページの朝刊にどのような内容を込めるのか注目したい。

我々はミニゼミ後、ネムロニュース社長である鎌田宏之氏に直接インタビューする機会を得た。鎌田氏は全国各地で風力発電などのインフラ事業を手がけており、情報も一つのインフラだとしてもともと関心があったという。また、鎌田氏は地方紙は民主主義の原点であると考えており、昨今衰退していく地方紙に問題意識を持っていた。紙離れが着実に進んでいく中、地方紙が生き残るためのビジネスモデルを探らなくてはならない、と考えていたことも、ネムロニュースを設立するきっかけとなった。人々が将来を思い描けるような社会になっていない日本に大きな危機感を感じており、まずは人々が自分の住んでいる地域に関心を持てるように貢献したいと考えたのだという。

ネムロニュースでも北方領土問題について多く取り上げる予定なのか、という質問に対して、鎌田氏は、北方領土問題などの地域固有の問題を取り上げることは、根室の歴史を記録するという観点では意義があると認めながらも、根室の人々の一番の関心は北方領土にはないと分析する。その上で、「根室=北方領土問題といった固定概念に囚われず、根室の人々の興味に応えた記事を載せていきたい。根室に関するニュースであれば何でも取り上げるつもりだ」と鎌田氏は語る。新聞社の階下にコミュニティスペースを設け、人々の興味がどういうところにあるのかを丹念に調べる予定だという。「スタートから完成された新聞を目指しているわけではなく、根室の人々と共に成長していく新聞社にしたい」と語った。

ネムロニュースのネット進出に関して、「地方紙の一番の欠点として、同時性が担保できないことだ」と鎌田氏はまず指摘した。全国各地にニュースをその日のうちに直接届けられる全国紙に対して、ローカルを活動拠点にしている地方紙はできない。それはすなわち、たとえ根室に関心を寄せた人が沖縄にいたとしても、その人にはニュースを届けることは不可能であるということだ。「インターネットという現代の技術によって、今まで同時性が欠けていた地方紙にそれを新しく付与したというシンプルな話だ」と鎌田氏は語った。根室に関心を寄せる潜在的な読者に、根室のニュースを届ける、ネット進出は自然な流れであったという。ネムロニュースのビジネスが確立した際は、自身が進出している地域でも地方紙を展開させていきたい、と鎌田氏は目標を掲げていた。

 今回のミニゼミや事前調査、取材を通し、地域のジャーナリズム全体の現状について考えを巡らせることができた。アメリカでは地方紙の廃刊による「ニュース砂漠」が大きな社会問題となっているように、ネット社会となった現代でもローカル紙は必要不可欠な存在であることがわかる。地域に住む人々が地域の政治から離れないように、地域に住む人々が身近なニュースを知ることができるように、ローカルに徹する地方新聞を無くさないことが重要である。しかし、旧根室新聞が経営難となったように、地方紙を取り巻く現状は極めて厳しい。地方の新聞社が十分な利益を獲得できるビジネスモデルを確立することが、新聞業界にとっての目下の急務ではないだろうか。

金子茉莉佳(法学部政治学科3年)/塩沢栄太(法学部法律学科3年)

Authors

*

Top