東京五輪 安全に開催できるか〜人流と感染リスク〜

 東京五輪を無事に開催することができるのだろうか。変異ウイルスの流行などを背景に、感染が拡大するおそれもあり、その不安に対する答えがないまま開幕が迫っている。

 国、東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会などによる5者協議の結果、観客数の上限に関し、定員の50%以内で最大1万人と正式に決めた。国が示した大規模イベントの人数制限に沿ったかたちだが、感染症の専門家の有志らは「無観客が望ましい」との提言を国や組織委に出していたが、受け入れられることは無かった。

 人を集めることは、感染症対策を考慮する上でリスク以外の何ものでもない。ましてやそれが、世界規模で短期間に集中するような大規模イベントであればなおさらである。

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)が6月11~13日に開かれ、G7、欧州連合、韓国、オーストラリア、南アフリカの首脳、政府代表をはじめ、世界中のメディア、警備に当たる警察官6500人が集結した英国南西部コーンウォールでは、新型コロナウイルスの新規感染者が激増している。G7開催前との比較では、20倍を超える感染爆発との報告があり、ほとんどがデルタ(インド型変異)株とみられている。

 東京五輪・パラリンピックは、海外からの観客はシャットアウトして行われるものの、国内の観客数が最も多い日は1日あたり約20万人を見込む。観戦者向けのガイドラインは観戦前、会場への移動、入場時、会場内、観戦後の5つの場面で感染対策の協力を求めている。観戦中もマスクを着用し、大声を出したりタオルを振り回したりする応援は行わないよう明記した。周囲の観客とハイタッチや、肩を組んでの応援も禁止となる。好プレーには声援ではなく拍手を促す。他の観客と距離を確保し、会場内を不必要に移動しないことなどで協力を求める。組織委員会によれば、ガイドラインの実効性を高めるために、順守しない観客に入場拒否や退場措置をとることもあるという。また、競技が終われば密を回避するために分散退場し、どこにも立ち寄らず自宅や宿泊先に直帰するよう要請している。さらに、公共交通機関ではマスクを着用して会話を控えることを求めた。

 競技会場外の人の流れ、すなわち観戦前後の観客の行動をいかに効果的に抑制できるかが重要なカギになる。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は「スタジアムの中だけのことを考えても感染対策ができない」と会場外での感染対策の必要性を強調し、特に会食など試合後の感染リスクを指摘する。

 組織委員会で開かれた専門家会議では、五輪観戦に出かけた場合の感染リスクに関する分析結果が公表された。観戦に行かなかった場合に比べ、観戦し直帰する人の感染リスクは6倍に、直帰しない人では最大約90倍になるという予測結果が報告されている。

 会議で座長を務める川崎市健康安全研究所の岡部信彦氏も「観戦後に対策を実施していない飲食店に立ち寄ればリスクが高まる」としたうえで、「直行直帰を促すことは感染拡大の抑制に効果がある」と説明する。

 五輪に参加する選手らについては、原則的に宿泊先と競技会場、練習会場以外へ向かうことは禁止され、厳しく行動が管理されている。ルールを守らなかった場合は参加資格の剥奪など罰則も科される。一方で、観客向けのガイドラインはあくまでも要請で、強制力はない。

 G7の開催地のように、短期間のイベントであっても開催後に大きな感染爆発につながったケースがある。我が国ではワクチンの延べ接種回数が2000万回を超えたとはいえ、2度の接種が完了した人はまだ500万人を少し上回る程度であり、全国の人口の5%程度だ。人流の増加は感染リスクを高めることを再認識し、観客らにいかにガイドラインを守ってもらうか。実効性を高める工夫を望みたい。

 橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

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