シミュレーション 菅政権

「(天国へ行きたいと願うなら)地獄へ通じる道を熟知しておくことだ」(マキアヴェッリ語録・第三部人間編)   

 昨年(2020年)9月、新型コロナが荒れ狂う中スタートした菅政権。その猛威が収まる気配もない中、今月(7月)23日東京オリンピック•パラリンピックの開会式を迎えようとしている。   

 菅政権がこれから辿るであろう道筋を3通りに分けてシミュレーションしてみた。先ず、決まっていることは、⑴菅自民党総裁の任期が今年(2021年)9月30日迄という事。⑵菅首相を含む衆議院議員の任期が今年10月21日迄である事。このタイムスケジュールに合わせて菅首相は衆議院を解散し、再選・第二次菅政権のスタートを目指す。

 シミュレーション1 は菅首相が東京オリンピック・パラリンピックの終了する9月上旬をめどに臨時国会を招集して解散に踏み切るケースだ。補正予算(落選しそうな自民党議員を救うための政策)も同時に成立させる。この場合のミソは自民党総裁選は開催せず、次期総裁つまり首相は菅氏を前提としている事だ。

 この場合、新型コロナワクチン接種が順調に進んで、しかも効果が顕著となり、例えば、イスラエルの様に感染者が奇跡的に極端に減っている。菅首相は「新型コロナに打ち勝った証し」として東京オリンピック・パラリンピックを政権の最大の成果とし、選挙戦を順調に勝ち抜いて再選を果たす。

 さて、そうは簡単に問屋は卸すまいというのがシミュレーション2 と シミュレーション3 だ。

 先月(6月)30日、東京都の新型コロナウィルスの感染者は714人。人口10万人当たりの週間平均は24.59人だった。これはステージ4、つまり「感染爆発」を意味する25人に限りなく近い数字だ。このままゆくとオリンピックの開会式(7月23日)、水泳・陸上などの競技が集中する東京ハイライトの日(7月30日)にかけてステージ4の状況が続くと懸念する専門家が多い。菅政権は「感染者が増えても、若年層に多く、しかも、症状は軽くすんで病院のベッドが不足する様なことはない」とたかを括る。だが、当然の事だが、若者の重症・入院はジリジリと増加し続ける。

 そして、この頃、オリンピックを目指して入国して来る6万人とも7万人ともいわれる外国人達が、日本の甘い水際検疫をすり抜けて、あらゆる種類の変異型ウィルスを持ち込む。当然の事だがインド型をはじめ感染力の強いウィルスが外国人と接する機会が多い日本人を通じて国内に広く爆発的に拡大してゆく。医療体制も深刻な事態を迎える。

 仮に、こうした事態のままオリンピック・パラリンピックが終了したとすると、「菅首相のままでは総選挙に勝てない」という声があがるだろう。急遽、自民党総裁選が設定され新しい総裁が決まる。直後に、所定の手続きを経て臨時国会、解散、総選挙となる。投開票日は10月10日か17日が想定される。そして、新しい自民党総裁・新首相が選出される。これをシミュレーション2 としよう。

 さて、最後にシミュレーション3。これは、新総裁の下での総選挙で自民党が敗北、例えば、自民、公明合わせても過半数を割り込む、或いは、維新などの事実上の与党を合わせても矢張り、過半数を制することが出来なかったという自民党にとって最悪のケースだ。

 こうした事態となる確率は今のところ極めて低いとみられる。だが、予兆がないこともない。例えば、最近のメディアの世論調査に共通しているのは、無党派層の異常な膨張である。自民党を大きく上回り堂々たる“第一党“である。膨張の背景には、安倍・菅と新型コロナの期間を含め長く続く自民党政権への不満、何より不信感があるとデータは示している。

 この秋には確実にある衆議院議員選挙で、無党派層が棄権せず、かつ、非自公の候補に投票するなら、政界動乱の時を迎えるかもしれない。“乱”は困るという声もある。しかし、”心機一転を望む“という声も決して低くは無い。

 3つのシミュレーション。現実は、こうクリアカットにはゆくまい。例えば、シミュレーション1 では、菅首相の下、選挙での勝利を当然の事としているが、ここでも自公過半数割れなどのリスクはある。菅氏に代わる新しい首相の登場だろう。

 さて、菅首相は、仮にも、「ステージ4」を無事に駆け抜けて再選されると信じているのだろうか?”地獄へ通じる道を熟知“しているはずだが。

陸井叡(叡Office代表)

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