<シネマ・エッセー> ファースト・マン

 米ソ宇宙開発競争のさなか、ジョン・F・ケネディ大統領が「1960年代中に人間をに到達させる」とのアポロ計画を発表したのは1961年5月でした。その2年半後、ケネディはテキサス州ダラスで凶弾に倒れ、宇宙センターが設けられたフロリダ州のケープ・カナベラルはケ-プ・ケネディと名前を変え、ケネディの遺志を継いだアポロ計画はこの打ち上げ基地と、ヒューストンの航空宇宙局を結んで進められました。

 1967年夏、私がケ-プ・ケネディを訪れたときも、「サターン5型ロケット」の巨体がそそり立っていて、その大きさに改めて目を見張った思い出があります。アポロ11号が運んだ宇宙飛行士ニール・アームスロングとバズ・オルドリンによる人類初の月面着陸が成功するのは、打ち上げロケットの巨体を身近に見た2年後、1969年7月20日でした。

 映画「ファースト・マン」の主人公は船長に選ばれるアームストロング(ライアン・ゴズリング)で、映画は空軍のテストパイロットから宇宙飛行士になる彼が妻のジャネット(クレア・フォイ)と共に、幼い娘を難病で失う悲しいシーンから始まります。それに追い打ちをかけるように、1967年1月には打ち上げ予行演習中のアポロ司令船で3人の友人飛行士が爆発事故で犠牲になるという悲劇が起き、家族を包む不安と苦悩は映画の最後まで続くのです。

 アームストロング自身も訓練中、何回も危機的状況に遭遇します。一度は「探査機」の飛行訓練で、機体が空中で爆発・解体し、危うくパラシュートで脱出。地上に叩きつけられ、負傷する場面もあります。また、ロケット発射訓練の際の衝撃の大きさは想像以上で、それに耐える飛行士たちの表情を映画で見ているだけで、こちらも息苦しくなります。

 というのも、私自身、1966年、航空自衛隊F104ジェット戦闘機による超音速飛行の上昇時に体験した、ものすごい重圧を覚えているからです。茨城県百里基地を飛び立ったときは、まるで『垂直上昇』するような感じで、一瞬、胃袋が口から飛び出すような衝撃でした。宇宙ロケット上昇時は、おそらくその数倍、あるいは数十倍の振動と重圧に耐えたことでしょう。

 そして、迎える1969年7月17日のアポロ11号の月への出発です。全世界が固唾をのんで見守る中、アームストロング船長以下乗組員は人類初の月面着陸へと旅立ちました。

 この映画の魅力はなんといっても、月面着陸の瞬間の詳細な再現でしょう。当時ニュース映像でも伝えられましたが、ニール・アームストロング船長が月に第一歩を印したときの第一声は素晴らしかったですね。

 

<< That’s one small step for man, one giant leap for mankind.

     人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である。>>

 

   最新のテクノロジーを駆使した月面活動の再現シーンは、映画を見る者に、自分がまるで月に降り立ったかのような思いを味わわせてくれました。監督・製作は2年前のミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞を受賞したデイミアン・チャゼル。製作総指揮にスティーヴン・スピルバーグの名前もありました。2月8日全国ロードショーで上映されます。

 

磯貝 喜兵衛(元毎日映画社社長)

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