<シネマ・エッセー> ベル&セバスチャン

アメリカのテレビドラマ・シリーズで一世を風靡した「名犬ラッシー」は、日本では1957年から10年近く放映された愛犬物語だった。この映画も、フランスで評判を取ったテレビドラマの映画化で、アルプスの寒村に住む孤児セバスチャンと野犬ベルとの冒険物語だ。

時は1943年。2次大戦でドイツ軍はフランスに浸入し、スイス国境に近いアルプス山麓にも、ドイツ兵が駐留している。村でパン屋を営む姪のアンジェリーナと共にセバスチャンを育てる山男セザールは頑固者で、大型犬のベルが家畜や村人を襲う”野獣”だと信じてワナを仕掛けたりする。

山の中で野犬のベルと遭遇したセバスチャンは、仕掛けられたワナに石を投げ入れ、危険を教えて助けるが、ベルを”野獣”だと信じる村人たちは山狩りをする。追い詰められ、銃撃されて怪我をしたベルをセバスチャンがけんめいに助けるあたり、ホロリとさせられるシーンが多い。

セバスチャン役のフェリックス・ボシュエは2005年パリ生まれで、2400人の中から抜擢され、今年末にフランスで公開予定の続編でも主役を務めるという。監督のニコラ・ヴァニエは1962年生まれ。作家、探検家、映画監督として北極圏、カナダ、アラスカ、シベリアを駆け巡り、冒険小説や記録映像を多数作っている。

雪深いアルプスでのロケで描く自然美も素晴らしいが、映画の冒頭で、断崖絶壁の洞穴に取り残された羊の子を助け出すため、セザールがロープでセバスチャンの体を吊り下げて懸命に引き上げるところは、実写を主にした山岳冒険映画ならではの息詰まるシーンで、極地を知り尽くしている監督らしい演出に圧倒された。

映画の後半は、ドイツ軍の監視の目をくぐり、スイス国境を越えて逃亡をはかるユダヤ人一家がからんでくる。アンジェリーナとセバスチャン、それに今では”愛犬”になったベルが一家を先導するのだが、危険なクレバスに落ち込みそうな時にも、ベルが野生動物のような鋭いカンを働かせて無言の救出に貢献する。

この映画は日本でも「名犬ジョリィ」のタイトルでテレビ・アニメ化されたセシル・オーブリーの児童文学を原作にしたドラマだが、何といっても天衣無縫なセバスチャンと真っ白な巨体でアルプスを駆けまわるベルの”友情物語”がすばらしい。(9月19日から東京・新宿武蔵野館ほかでロードショー上映)
磯貝 喜兵衛(元毎日映画社社長)

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