エッセー ”デジタル難民“だった私-7年ぶりの海外渡航-

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会生活における対面の交流を一時的に停止させた。その一方で非接触のビジネスやサービスは利用が急速に拡がった。オンラインでの会議やシンポジウムへの参加は日常的になった。
 コロナ禍がようやく落ち着きを見せた2023年、私は約7年ぶりに海外へ渡航することを計画した。しかし面食らったのは、この間に旅行や観光においてもデジタル化が進んでいたことだった。
<航空券のデジタル化>
 まず、旅行を始めるにあたって、自分が情けないほどアナログ人間だったということを再確認した。もうすでに何年も前から航空券のチケットをオンラインで予約することは一般的になっていたはずだ。しかし私はコロナ禍の前まで、旅行代理店の店舗に出向き、窓口の担当者に相談しながら航空便チケットを予約し、航空券の引換証を受け取っていた。出発日の当日、この紙の引換証を空港に持参してチェックインをしていたのだ。その意味で航空券に関しては、サービス自体のデジタル化が進んだのではなく、私自身の行動がデジタル化を余儀なくされたことになる。
 今年前半はコロナが落ち着いたとはいえ引き続き感染者数が増加していたため、私は旅行代理店に赴く代わりに、オンラインで航空券を予約することにした。しかし、無事に予約を済ませたあと、ふと我に返り不安になった。発券された紙がない状態で、どのように空港でチェックインができるのか、と。
しかし出発の直前になると、私はデジタル化の恩恵を実感することになる。「オンラインチェックイン」である。デジタル化が進む以前は、旅行代理店が発行する航空券引換証の紙片を空港の航空会社カウンターでパスポートと共に提示をして航空券を発券してもらい、荷物を預けてチェックインをした。ところが現在は、搭乗便の24時間前からパソコンやスマートフォンでチェックインをすると、デジタル化された航空券を発券することができる。さらに、自分で座席の予約もできる。これを済ませば、空港到着後は手荷物を預けるだけで搭乗ができる。逆に、このオンラインチェックインをしておかないと、航空会社によるダブルブッキング(搭乗者のキャンセルを見込んで、多めに予約を受け付けること)があった場合、空港到着後に搭乗できないことが発覚することになりかねない。実際、今回の旅行で欧州内を飛行機で移動する際、オンラインチェックインを怠ったために、「ダブルブッキングのため席がない」と空港で言われた。その時はキャンセル待ちのリストに入れられてしまったが、運よく搭乗することができた。搭乗直前までハラハラさせられたことは言うまでもない。
<キャッシュレスの浸透>
 他にも、情けないことに私はクレジットカードを極力使わない生活を送っている。現金を使った方が、資金の出入りを実感できるからだ。しかし、すでに海外では現金を使わないことが浸透しているようだった。アジア圏ではスマートフォンのアプリで支払いをすることが報道されているが、今回私が滞在したオーストリアとイギリスでは、ほとんどの支払いにクレジットカードが必要だった。出発前に慌ててカード会社に連絡をし、メールやアプリを通じて自分のクレジットカードの暗証番号の確認作業をした。普段使用していないために暗証番号を忘れてしまっていたからである。当然と言えば当然なのだが、会社によっては暗証番号を簡単に教えてくれず、様々な手続きの結果、連絡が郵送で一週間ほどかかる時もあった。
 確かに現地では、オーストリアでもイギリスでもクレジットカードが使えない店舗はほとんどなかった。とくにイギリスでは、地下鉄などの交通機関も改札口でクレジットカードをかざせば支払いが可能だ。レストランやパブでも、知人と入店した際に割り勘でクレジットカード払いをするための請求書を発行してくれる。日本のように、誰かがまとめてカードで支払いをし、その人に対して他の人が現金で払うという作業をしなくてすむのである。

<無人のホテル>

ホテルの入り口
ホテル入口の内側


 何よりも驚いたのは、オンライン予約サイト上で予約したロンドンのホテルが、「セルフチェックイン」のシステムだったことだ。
 予約した時点では、このシステムの意味がよく呑み込めなかったが、要は入り口にレセプションがないホテルだった。厳密には「hotel」ではなく「serviced apartment(サービス付きアパート)」と運営会社は呼んでいる。施設内に常時職員はいないが、数日に一度、部屋の清掃やタオル・シーツの交換をしてくれて、簡単なキッチン・調理器具・食器などがついているホテルだ。
そこは魅力的な施設だった。交通の便が良く、駅から徒歩5分程の場所で、チェルシーという閑静な住宅街にある。利便性と安全性が最大の利点だった。しかも内装が新しくモダンなインテリアで、世界各国から訪れた利用者による予約サイト上の評価がとても高かった。何より物価が高いロンドンで民泊並みの宿泊料金。それらの条件をすべて総合して予約を決めた。しかし不安だったのは、やはりレセプションカウンターがなかったことだった。どのようにホテルにチェックインするのか、自分の部屋にはどのように入るのか、わからない。ホテル予約サイトには、到着の3日前にメールでチェックインに必要な情報を送ると書いてあった。
 救いだったのは、利用者のコメントの中に「レセプションはないけれど、スタッフとのコミュニケーションは素晴らしく良い」と書いてあったことだった。実際に、予約直後に自動メールが届き、何か質問があったら遠慮なくメールで聞いてください、と書いてあった。
 ホテル運営のスタッフとのやり取りは、基本的にメールや電話を通して行うことになる。おそらく本社にいるスタッフが問い合わせに応じているのだろう。チェックインまでの流れはこうだ。3日前に届くメールには4桁のコードが記載されていて、ホテル入り口の小さなパネルに打ち込むと解錠されることになっている。さらに、あらかじめ伝えておいた到着予定時間の数時間前に、やはりメールで部屋の鍵の取得の仕方を説明してくれる。4桁のコードを自分の部屋の入口横に設置されている小さな鍵箱にセットすると箱が空き、中に鍵が入っているというシステムだ。メールは説明ビデオ付きだった。
 少し調べて見ると、日本でもコロナ禍がきっかけで、接触を避けるためにセルフチェックインのシステムはホテルなどで採用されているようだ。衛生面や人件費削減に貢献するのだろう。しかし、今回泊まったロンドンの施設は、受付も、ベルボーイも、コンシェルジュもいない。運営会社はロンドンの古い建築物を買い取り、改装して同様のアパートを市内で複数運営しているようだった。今回宿泊した地域は古い建造物が並ぶ住宅街で、その一角を改装したホテルが他にもあった。それらが全部セルフチェックインの施設だとは思わないが、少なくとも欧州では様々なセルフチェックイン方式を採用しているホテルが存在しているようだ。
 余談になるが、宿泊施設に受付がないと、あるいは受付があってもスペースが狭いと、宿泊者の荷物を預かる場所がない。私の場合も、出発日の午前中にチェックアウトした後、航空便が出発する夕方まで観光をするために、スーツケースをどこに預けたらよいのか、現地に到着するまで心配だった。しかし現地でわかったことは、ロンドンには荷物預かりをする場所が数多くあることだった。その場所を探すアプリが複数あり、調べて見ると自分の宿泊したホテルのすぐ近くにも多くの荷物預かりサービス所があった。そのうちの一つに、アプリを通じて予約をし、クレジットカードで支払いを済ませ、当日は予約完了時のQRコードを提示して荷物を預かってもらった。中東系の店主が営む小さな土産物屋が、荷物預かりサービスも請け負っているようだった。店の奥に無造作に集められたスーツケースを見て、信用のおけるサービスなのか不安がよぎったが、予約時に多少の保険に加入したこともあり荷物を置いて街に出た。
 今回の旅行を通して、観光に関わるあらゆるサービスのデジタル化が進んでいることを理解できた。アナログ方式に慣れた身では戸惑うことが多かったが、世の中の変化とサービスの急速な進展を実感した。
 中田浩子(ジャーナリスト)

Authors

*

Top