中国の感染爆発と情報の混乱 ~武漢の教訓は生かされているか~

 中国政府が昨年11月に新型コロナウイルス感染症に関する規制を緩和し、コロナを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策を12月に突然解除した後、感染拡大ペースが加速した。当局がコロナ感染状況の日次データの公表を中止したり、感染による死亡の定義を狭めたりしたことで、同国でのコロナ感染の影響を測ることは一段と難しくなっている。中国各地でソーシャルメディアに死者の急増が投稿されており、実際の死者数は公式発表をはるかに上回る可能性が示唆されている。

 世界保健機関(WHO)は中国に対し、感染状況についてより「迅速で定期的かつ信頼できる」データを開示するよう求めている。中国国家衛生委員会および外交部は1月5日、WHOおよびその加盟国とのオンライン会合で、中国疾病対策予防センター(中国CDC)の職員および東南大学の専門家が中国の最新のコロナ予防・管理対策、変異株の監視、ワクチン接種の取り組み、感染症の治療について報告したと発表した。

 中国側からの説明には、ワクチンやウイルス配列に関する情報が含まれ、中国における新型コロナウイルスの感染拡大はオミクロン変異株の亜種「BA.5.2」および「BF.7」が主体で、合わせて全地域の感染者の95.7%を占めているという。また、このデータは他の国からグローバルデータベースに提出された中国からの渡航者のゲノム分析結果と一致しており、公開されている配列データには新たな変異株などは見られないとした。

 現在、新型コロナウイルス変異株の遺伝子情報はデータベースに登録され、迅速な公開によって誰でも利用することが可能となっているが、中国の情報は示されていない。WHOのテドロス事務局長は「われわれは中国に対し、入院者数と死者数に関するより迅速で定期的かつ信頼できるデータ、およびより包括的でリアルタイムのウイルス配列の公表を引き続き求める」と指摘。「WHOは中国における生命へのリスクを懸念し、入院、重症化、死亡から守るためにブースター(追加)接種を含むワクチン接種の重要性を改めて示した」と述べた。

 中国は14日、昨年12月8日から今年1月12日までに本土の医療機関で5万9938人がコロナ関連で死亡したと発表した。この時点で、北京大学の研究によれば、国内の人口の64%が新型コロナウイルスに感染していると報告されており、1月末までに感染者の比率はさらに増える可能性がある。

 中国当局は、地域の医療サービスに対し「全人口、特に高齢者への予防接種を強化」するように求めているとしているが、使用されているワクチンは中国産のワクチンであり、最も拡散しているオミクロン株に対する有効性については疑問視されている。欧米のワクチンを併用することで効果が期待できるとされているが、中国は使用を拒否しており、国家の威信が一つの要因かもしれない。

 今回の新型コロナウイルスの起源はまだ明らかになっていない。しかし、最初に感染症例が報告されたのは中国の武漢市だった。そこから1か月半以上経って、中国全土、さらに全世界に感染が広がってしまった。なぜ新型コロナウイルスの感染を武漢市に封じ込めることができなかったのだろうか。中国外交部は「中国(の科学者)はその特性を十分に認識できなかったから」と弁解している。それであれば、今回の感染拡大を防ぐためには感染状況や変異ウイルスに関する適切な情報共有、科学的知見に基づいた感染対策の実行は不可欠である。中国共産党指導部が現状の政策に固執することで3年前の教訓が生かされなければ、再び世界経済は混乱に陥ることとなる。

橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

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