核燃料リサイクル問題でアメリカなどが日本に厳しい視線

 「中国が発言をするなんて!まともに相手にできないが、日本批判の為にする発言と思う。本当によくいうよという感じだ。」大使経験もある元外務省0Bは怒る。
 昨年10月20日の国連総会第一委員会(安全保障と軍縮を担当)、中国の傳聡軍縮大使はこう発言した。
 「日本が保有する核物質は核弾頭1350発に相当する。適正な必要量をはるかに超えている。世界の核セキュリテイーと核不拡散、安全保障上の観点から深刻なリスクを生んでいる」
 「日本の一部の政治勢力は『日本は核武装をすべきだ』とかねてから主張して核兵器開発を要求している。世界は日本の動きを注意すべきだ」
 「日本の原発再稼働と使用済核燃料再処理工場計画は、こういう動きと連動する事態を悪化させる行動だ」
 こういう発言を打ち消すように今年3月31~4月1日にはワシントンでは、オバマ大統領の提唱した“核なき世界”の実現を目指す「第4回核セキュリティーサミット」には安倍首相も参加して、国際テロ組織の原子力施設への核テロの脅威に立ち向かうことで合意した。
 さらに4月10~11日にはG7外相会議が被爆地広島で開催され、参加7ヶ国の外相がそろって原爆慰霊碑、原爆資料館を訪れた。そして5月26~27日の伊勢志摩サミットでは、オバマ大統領の米国大統領として初の広島訪問が取り沙汰されている。
 しかし「中国にこういわせる素地がないかといえば、あることも事実だ」と日本側にも、この問題についての弱みが海外から見ればあることは率直に認める。
 日本は福島第一原子力発電事故前、54基の原子力発電所が稼動していた。つまり発電後の使用済み燃料の中には、核分裂していないウランや、原子炉内で生まれたプルトニュウムが含まれており、これを再処理して取り出し、高速増殖炉やMOX燃料としてプルサーマル方式で使用すれば、プルトニュウムも消費され燃料サイクルは完成する。もちろんこれらの炉などから出される高濃度の使用済み燃料の最終処分は、いわゆる“トイレなきマンション論”として反原発派の反対根拠になっている。しかしとりあえず核兵器製造問題とは切り離される。
 ところがこの核燃料サイクルの中心部を担う、日本原燃㈱の青森県下北半島にある再処理工場の運転開始は、原子力規制委員会の審査が施設の下に活断層があるという疑いがもたれ、遅れに遅れている。運転開始は五里霧中の状態。電力会社が主体となり建設が始まったのは1993年、2009年の本格稼働を予定していた。しかし様々な技術的なトラブルに見舞われ、当初建設費予定は7600億円だったのが99年には2兆4千億円、2003年には総費用は約11兆円にはね上った。
 さらに再処理工場で作られるプルトニウム燃料の受け皿となる高速増殖炉、これまで数回にわたりナトリウム漏れ事故などを起こし、1兆円を超える予算をつぎ込んだが満足に動いていない。このため昨年11月原子力規制委員会はこれまでの開発体制に大きな問題があるとして「日本原子力研究開発機構」から、別の体制に移行させての運営しか認めないとのレッドカードを出した。
 さらにプルサーマル計画も3.11の福島事故後、全原発がストップしたことで進んでいない。
 いわば核燃料サイクル計画自体、まったくの袋小路に入っているのが現状だ。その結果何が起きたか。再処理工場が本格稼働しないままの状態で、国内の54基の原発の使用済み核燃料は、英国、フランスに再処理を委託したためプルトニウムは両国に37㌧、日本の原子力発電所などで厳重に管理されているものが10.8トン、合計で48㌧余り保有していることになる。中国大使が「日本は1350発の核弾頭」を持つ“潜在的核保有国”だと煽るわけだ。
 核保有国以外で再処理工場の存在がIAEAから認められているのは、日本だけ。アメリカとの1988年に締結した日米原子力協定のおかげだ。その期限が2018年に切れる。もちろん自動延長という項目も入っている。しかしアメリカ国内の一部には、核のテロなどを恐れて日本に大量のプルトニウムが蓄積される事を警戒して、再処理工場の運転再開に反対の声を上げ始めている。
 プルトニウムを預かっている英、仏からは「金を払うのなら買い取ってもいい」という声も聞こえ始めている。これまで核燃料サイクルを維持する目玉だった“金の卵”だったはずのプルトニウム、これを産業廃棄物のように売るとなると、国の政策である核燃料サイクル自体の考え方が根底から崩される恐れがある。
 原発をめぐる国際政治にかかわる問題だけに、唯一の被爆国の日本政府として核燃料サイクルのあり方を含めた抜本的対策を打ち出すべきだろう。
桃田 五郎(ジャーナリスト)

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