シリーズ コロナ後5年の世界 最終回 スマート農業で「瑞穂の国」の復活を 

 岸田文雄首相は、デジタル田園都市国家構想をぶち上げ、具体的には海底ケーブルで日本を周回する「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」を3年程度で完成させ、地方にいながら都市に、世界につながる生活ができるようにするとうたう。

 地方都市が、海底ケーブルの揚陸地に名乗りを上げる一方、電力多消費のデータセンターを誘致し、彼らの再生可能エネルギー希求を梃子に、間伐材を利用したバイオ発電、林業を活性化し,あわせてハイテク集積をくる算段をするのも良い。またデジタル環境を活かして地方の抱える社会問題を田舎の空き家なども使いながら兼業兼居で解決せよという元野村総研の玉田樹の提唱とか、三菱総研の松田智雄がいう逆参勤交代の提唱とかを都市と地方の均衡策として耳を傾けるのもよいだろう。

 1961年の農業基本法は、農地改革で固定化した零細な農業規模を拡大することによる農業のコストダウンを目指した。具体的には、農家戸数を減少させ、 農地を集積させて農業だけで他産業並みの所得を実現できる規模の大きな農家を育成しようというのが本旨であった。しかし、組合員の圧倒的多数が兼業のコメ農家で、農家戸数を維持して政治力を発揮したい農協が構造改革に反対して、改革は実現できないできた。自民党と農協票の結びつきが減反政策となり農業を、農村を、そして地方を袋小路に追い込んできたのだ。

 元農林省職員でキヤノングローバル研究所の研究主幹をつとめる山下一仁は、かつて日本のコメ価格が、海外と相当程度ちぢまったことに着目し、減反政策をやめ増産に転じても、これまでに農業対策費以下のもので十分対抗できるところにと来ているとの論を展開した。しかし空理空論だと誰も耳を傾けようとしなかった。

 ここで農地の集約化に熱心だった茨城県で行われている実験を見てみよう。

横田農場を舞台に、農研機構が進めてきた①圃場(ほじょう=水田)水管理システムと配水管理制御システム、②自動運転田植機、③ロボットトラクター、④食味・収量コンバインとデータ連携選別機、⑤栽培管理支援システムと営農管理システム、の5つを機械メーカーと協力しながら実装し、その成果を見るという実験だ。コンセプトとしては高品質のコメをスマート農業の手法で大規模化して行けるかを見るものだ。横田修一農場長はAIの指示が結果的に正しかったことなど実証実験に手ごたえを感じ、遠くない将来に日本的なスマート農業で1000ヘクタールの営農体が出てくるという感触がつかめたという。先の山下がおく日本の農業の基準は5-10ヘクタールである。生産規模拡大のイメージが桁違いになっている。

 横田農場は、ブランド米で輸出攻勢をかけろと言う山下の提言の路線にある。これに対し世界的に食糧不足が進む中、日本に求められているのはカルフォニア・コシヒカリのようなボリューム品なのだとそれと同等の品質でコスト的に太刀打ちできるコメ作りを目標に、スマート農業の手法をとるべきだというのがライス&グリーン石島の石島和美社長だ。石島も実際に輸出してみて需要に応じ切れないほどだと十分な手ごたえを感じている。

 デジタルという技術が営農としてのコメ作りを可能にし、それが農地の集約化を促そうとしているのだ。思考停止をしていた自民党も減反政策の愚を悟るに違いない。荒れ地が農地に戻れば国土は美しくかつ強靭になる。

高橋琢磨(元野村総合研究所主任研究員)

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