ミニゼミ報告「2020年東京都知事選レポート」

 2020年7月15日、会議アプリZOOMを用いて2020年度2回目のミニゼミが開催された。今回は2020年7月5日に執行された「第21回東京都知事選挙」を題材に、選挙とマスメディアやSNSの関りについてジャーナリスト10名、研究員所属の教授2名、学生3名が熱く議論を交わした。具体事例として、学生3名が、現職ならびに国政政党の推薦を受ける候補者を中心に、街頭演説に足を運んだり、各種SNSをチェックしたりするなど取材を重ね、考察を報告した。それを基に、ジャーナリストや教授から見識を伺い、都知事選の結果の受け止めとジャーナリズムの果たした役割について検討を行った。

 はじめに筆者と中川翼君(文学部3年)が担当した山本太郎陣営から見た都知事選について述べたい。我々は6月24日に新宿駅東南口で開催された山本太郎陣営の街頭演説会を取材した。昨年、取材した2019年の第25回参議院議員通常選挙の山本太郎氏の戦い方と比較し感じた特徴を挙げたい。まずは聴衆の盛り上がり方だ。参院選の際は、演説の最初は人がまばらであったが、山本氏の演説に引き込まれ足を止める人が次第に増え、時間帯と場所によっては最終的に1000人を遥かに超えることもあった。しかし、今回は予めスタンバイしている山本支持者が多かった反面、山本氏の演説によって足を止める人々は参院選ほどではなかった。コロナ禍であることを考慮しても盛り上がりに高止まりを感じたというのが率直な感想である。れいわ新選組は昨年の結党から参院選までで4億円の寄付を集めた。今回も街頭演説の会場では、参院選同様に、演説の合間にボランティアが寄付を募る場面が見受けられた。山本氏は7月5日の敗戦会見で出馬表明から約3週間の間に8574件の寄付があり、額は2020年にれいわ新選組が受け取る予定の政党交付金、1億6000万円に匹敵する1億3000万円の寄付が集まったことを明らかにした。山本氏は「当選を本気で目指していた」と語ったものの、国会議員は2名のみで、政党交付金の額も9つの公党の中では最低であるれいわ新選組にとって寄付の存在が重要であったことは明らかであるだろう。また、支持者から話を聞くと他陣営にはない政治家個人への期待を感じた。昨年の参院選から山本氏を応援し、これまでも積極的なボランティア活動を行ってきたという20代の男子大学生は「政策には興味がないが、山本さんにカリスマ性を感じ、応援している」と笑顔で話していた。2016年から山本氏を応援しているという30代の女性会社員は「労組や業界団体に頼らない市民の選挙に魅力を感じている」と語った。宇都宮氏や小池氏の支持者が彼らを応援する理由として「実績」を挙げていたのに対し、山本支持者からは山本太郎という政治家個人への期待の声が多く寄せられた。これが山本陣営の大きな特徴であり、ボランティアの熱気に繋がっているということができるだろう。

 今回の都知事選においてはほとんどの野党が宇都宮候補の支援に回った。山本氏の公示直前の出馬表明は野党分断を招くものだと批判する声もあった。しかし、須藤元気参議院議員は立憲民主党に離党届を提出し、応援に駆け付け1日4回演説をこなす日もあった。減税研究会という議員連盟で共同代表を務める馬淵澄夫元国交大臣や音楽評論家の湯川れい子氏、元滋賀県知事の嘉田由紀子参議院議員も応援に駆けつけている。加えて、タカ派の代表格とも言われる亀井静香元金融担当大臣もビデオメッセージを寄せた。このように山本氏は革新から保守まで様々な立場の人々から応援を受け、永田町内にも一定程度の共感者がいたことが分かった。

 宇都宮氏の支持者は山本氏をどう見ていたのだろうか。宇都宮陣営でボランティアをした20代の男子大学生は「コロナ禍という緊急時には実務経験のある首長が必要だと考え宇都宮氏を応援した」と語る。ボランティアの中には山本氏の出馬に疑問を持つ者もいたそうであるが、「山本氏の政策には懐疑的な部分も多い。しかし彼が獲得した約65万票の民意を無視してはならない」と語気を強めた。

 今回の選挙で私はミニゼミで割り振られた宇都宮陣営、山本陣営の街頭演説に足を運び、またSNSも含めると小池陣営、小野陣営など12の候補者の主張を聞いた。演説会場ではコロナ禍による都民の政治に対する関心の高まりを感じたが、いざ蓋を開けてみると投票率は前回よりも4,7ポイント低い55%だった。約2人に1人の都民が投票を棄権したことになる。この数字の捉え方は様々だが、筆者は盛り上がりに欠けた選挙戦だったのではないかと感じる。知事選が盛り上がらなかった要因はどこにあるのだろうか。ミニゼミの議論の中では、これまでの都知事選は地上波のテレビ番組に主要な候補者が出演して討論会が行われたが、今回は1度も行われることがなかったことやマスメディアが公約の検証など十分な投票判断材料を提示できなかったことが要因であるという声も挙がった。私自身、今回の取材では2位争いを見極めるために、宇都宮氏、山本氏、小野氏を中心的に追ったが、一般的に考えると落選する2位に関心を寄せる有権者は僅かだろう。2位争いに注目するマスメディアも少なくなかった。ここにも都知事選が盛り上がらなかった要因があるのではないだろうか。原稿を書いていてふと、なぜ自分自身が当選者ではなく2位争いばかりに注目していたのか疑問に思った。今となっては、あまりにも凝り固まった視点だけで都知事選を捉えすぎていたように感じる。ジャーナリストを志すものとして、多様な観点からもっと客観的に都知事選を見るべきだったのかもしれない。

 松山泰斗(慶應義塾大学法学部3年)

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