2020年:日韓は信頼関係を取り戻せるの?

2019年12月24日、中国四川省・成都で、日韓両首脳による会談が開催された。
 1年3か月ぶりの会談となった。日韓関係は、戦時徴用をめぐる韓国大法院判決を機に、戦後最悪と評されるほどに冷え込んでいる。外交上の葛藤は、貿易・経済から民間交流にまで波及し、GSOMIA・日韓軍事情報包括保護協定の延長をめぐって、北東アジアの安保問題にまで拡大していた。今回の首脳会談が実現したのは、アメリカの圧力を受けた韓国がGSOMIAを失効寸前に翻意し延長したこと、また、日本による輸出管理強化の問題では、対話で解決を図ることで一致したことによる。会談では、安倍首相もムン・ジェイン大統領も日韓関係の重要性を強調し、対話を継続していくことを確認している。
これまで背を向け合う関係にあったことを考えれば、一定の評価を与えることができよう。懸案の戦時徴用の問題については、安倍首相が「韓国の責任において解決策を示すべきである」と求めたのに対し、ムン大統領は「早期に問題解決を図りたい」と述べたという。しかし、具体的な対応策は示されず、解決の糸口は依然つかめていない。日韓関係の礎、日韓基本条約と請求権協定から55年の節目となる2020年を迎え、冷え切った日韓は信頼関係を取り戻すことができるのだろうか。

今回の首脳会談は、日韓が大きく揺れ動いた2019年を締めくくるものとなった。高い関心を示した日韓双方のメディアはどう伝えたのであろうか。日本の大手全国紙はこぞって翌朝の社説で取り上げている。「最悪を抜け出すために(朝日)」「対話を積み重ね信頼回復を(毎日)」「日韓は戦略的な協力を探れ(日経)」など、今後の対話が相互不信の緩和につながることに期待感を示している。また、韓国の大手紙も翌朝の社説やニュースで取り上げ、「葛藤解決の第一歩を踏み出した韓日首脳会談…頻繁に会うべき(中央日報)」「韓日首脳『対話による問題解決で共感』…『ウィンウィン』の道を共に模索しなければ(東亜日報)」「輸出規制・強制動員問題、『対話による解決』の糸口見つけた(ハンギョレ)」など、両首脳が対話の姿勢を示したことを積極的に評価している。その一方、「文政権は事態の収拾に動け(読売)」「対日改善の意思ないのか(産経)」や「文大統領・安倍首相、徴用問題で平行線…合意文の発表できず(朝鮮日報)」では、対話の姿勢を評価しつつ、これまでのムン政権の姿勢を批判的に捉え、先行きの不透明感を論じる点を見逃すわけにはいくまい。単に対話が始まったというだけでは、決して楽観できない難問が残っているからだ。日韓の関係が悪化した根底には、戦時徴用をめぐる問題に象徴される歴史認識問題が最大の懸案として横たわっている。

この1年、北東アジアは、非核化をめぐる米朝協議、南北対話、米中貿易戦争という、構造的な問題に揺れ動いてきた。加えて、半年以上続く香港の民主化運動、対中関係が争点の台湾の総統選挙(1月)、ムン政権の基盤にも関わる韓国の総選挙(4月)など、目の離せない動きが続く。12月中旬、総統選挙の候補者が揃った台湾を訪れてみた。ほかでもなく、北東アジアを代表する都市を巡ることで、日本との関係や変貌ぶりなどを確かめたいと思うからである。台北、対中、そして高雄と訪れた街では、まだ選挙戦は表立っておらず、選挙に関する情報は、世論調査とは一部異なる支持率の違い以外に目新しいものは得られなかった。一方、日本と台湾との関係は、一般的に言われるように、わずか4日の滞在ではあったものの、日韓関係とは根本的に異なることを改めて実感することとなった。国家関係の歴史を単純に論じる軽はずみは避けるが、日清・日露戦争以降の近現代史、とりわけ日本による台湾、そして韓国の植民地支配への「歴史認識」の違いを重く受け止めることとなった。台湾からの帰途、歴史認識をめぐる日韓の隔たりの大きさと相互理解の不足という現実にどう向き合うのか、件の難問が頭から離れないまま、成田空港に到着した。

 

2019年7月以降、日韓の歴史認識をテーマにした本が話題となっている。「反日種族主義-日韓危機の根源」だ。韓国では7月、日本でも11月の発売以降、ベストセラーという。慰安婦、徴用工、竹島などについて、日本の植民地支配に対する教育の在り方や韓国人の通念などを資料とともに論じ、行き過ぎた反日姿勢を批判している。その内容をめぐって、韓国では賛否が大きく分かれているという。歴史認識に対する韓国社会の新たな「変化」と見ることもできる。読み終えての印象は、6人の著者の主張に沿った資料だけが際立っているように思えた。11月にソウルを訪れた際、知人が「単なる随筆」と一蹴したことが思い浮かぶ。とはいえ、歴史に向き合うには、多様な史実を収集し、真摯に分析することが不可欠である。感情的な側面は別にして、正確な統計やデータを多角的に収集・研究し、双方で共有することが求められよう。
編著者の元・ソウル大学教授、イ・ヨンフン氏は、著書のテーマについて、日本の植民地支配に関連し、「韓国人が持つ通念がいかに脆弱であるかを論証することにあった」「期待するのは、我々が犯したかもしれない錯誤に対する厳正な学術的批判」とも記している。著書の内容をめぐる賛否を認めつつも、留意すべき言葉であろう。学問の世界であれ、メディアの世界であれ、信頼関係に基づく、明日の日韓関係を考えるには、激動の北東アジア、朝鮮半島の歴史を学び直さなければならないと思う。また、国際社会で発展する共通の法とルールを踏まえ、自らの主張を組み立て、国際世論にも強く訴える必要があろう。
羽太 宣博(元NHK記者)

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