混迷する韓国にどう向き合うの?

10月22日、天皇陛下の即位に伴う「即位礼正殿の儀」が皇居・宮殿で行なわれた。191の国・国際組織などからおよそ2000人が参列し、CNNやBBCなど世界のメディアが中継や速報で伝えた。韓国でもニュース専門チャンネルが儀式の様子を生中継で伝えている。ソウルに住む韓国の知人から翌日届いたメールでは、「朝からの雨も止んで盛大な儀式となり、私どもも安らかに生中継を見守った」と記している。日韓のメディアは、24日に行われた安倍首相とイ・ナギョン首相の会談にも大きな関心示した。冷却しきった日韓の首脳が1年1か月ぶりに会談するとあって、対立の修復に向けた「分岐点になるか(中央日報)」「一歩を踏み出すべき(東亜日報)」などと期待感を示した。会談では、ムン・ジェイン大統領の親書が安倍首相に手渡され、「最悪の日韓関係を放置できない」との点で一致した。戦時徴用の裁判の論点の一つ、原告への慰謝料に当てる基金などをめぐって、今後どのような協議が行われるのか注目したい。また、11月のASEAN+日中韓首脳会議、APEC首脳会議、12月には日中韓首脳会談も予定されている。安倍首相とムン大統領による個別会談が実現するかどうかも焦点となろう。

 昨今の日韓関係を考えるにあたって、ムン政権が大きな曲がり角に立っている点に留意する必要がある。国論が二分するなか、法務部長官に任命した側近の一人、チョ・グク氏が家族の相次ぐ不正疑惑に耐え切れず、わずか1か月あまりで辞任した。その後、妻は11もの容疑で逮捕され、ムン政権の支持率は就任以来最低の40%前後まで落ち込んだ。経済はどうだろうか。ムン政権による最低賃金の大幅引き上げ、労働時間の週52時間制、財閥改革などの経済政策は逆に市場を圧迫し、韓国経済をさらに厳しくする羽目となった。7~9月期の実質GDPの成長率は前年同期比-0.4%、今年の成長率は1%台にまで落ち込むとの予想だ。一方、韓国を取り巻く国際環境は殊のほか厳しい。破たん寸前にまで落ち込んだ日韓関係に加え、米韓、南北関係も厳しい。韓国が破棄を決めたGSOMIA・日韓軍事情報包括保護協定をめぐって、アメリカが韓国に強く再考を促す一方、米韓同盟や日米韓の枠組みにヒビが入りかけている。朝鮮半島の統一を視野に、ムン政権が推し進める南北融和政策に対し、北朝鮮のキム・ジョンウン委員長はことのほか現実的で冷淡にさえ見える。中断している金剛山の観光開発では、キム委員長が韓国側の施設を取り壊すよう指示したり、韓国が求める協議を拒否したりするなど、あれほど接近したはずの南北間に隙間風が吹く。内憂外患のムン政権はこれまでの安定した支持基盤が緩み、韓国で今何が起きているのか、どこへ向かうのかも見えにくく、予測し難い。混迷していると言うほかない。

韓国が混迷する要因として、3点挙げることができよう。まず、ムン大統領自身の生い立ちと経歴によって育まれた歴史認識がある。日本による韓国の植民地支配を不法とする観点から、戦前・戦後の日韓関係を再構築する試みは、理想主義が現実と乖離し対立が生まれる。二つ目は、経済や雇用政策などが支持母体に迎合するポピュリズムの性格を色濃く持つこと。中央日報は「ポピュリズムの罠に掛かった大韓民国」と題するコラム(10月3日)で、ムン大統領を「典型的なポピュリスト」と評し、「ポピュリズムの終着地は…国を分裂させ、国民を分裂させ、財政を破綻させる」とさえ論じている。そして、韓国メディアの定まらない論調がある。批判こそメディアの役割としても、日本とムン政権への批判が同居すれば、その「ぶれ」が気にかかる。「日本不買運動」はやや下火になったというが、ビールやファッションなどの日本企業が大きな影響を受けている。同時に韓国の旅行・航空業界も深刻だ。7-9月期の営業利益は前年比60%前後も減少したという。一方的かつ一貫性のない報道は、目立つ情報偏った断片的報道にすぎない。また、全体像の見えない情報は受け手に混乱を招く。

見えにくく、予測し難い韓国に、どう向き合うべきなのだろうか。日韓関係の根底には、それぞれの歴史認識が横たわっている。国交正常化以降、とりわけ1980年代以降、教科書問題、慰安婦問題、戦時における徴用問題、旭日旗問題など、対立の構図が繰り返されてきた。歴史認識は、たとえ史実に基づいていても、感情的な対立を呼び起こす。紛争や対立と向き合うにあたって、感情に流されては解決すべき問題がこじれてしまう。何よりも一喜一憂は避けなければならない。国家同士が向き合う外交は、事態を冷静に分析し、協議によって平和裏に解決するところにある。植民地の支配国と被支配国という、日韓に即して言えば、その歴史を踏まえ、反省すべきは反省し、主張すべきはしっかり主張し合う関係が不可欠となる。また、その立脚点は、対等な国家関係を基礎とする国際社会の共通ルール、国際法と正義にほかならない。メディアの立ち位置も同じだ。換言すれば、「国益」とともに「国際益」を守らなければならない。そして、何よりも確かな事実、全体像を示す報道が問われることとなる。

近く韓国を訪れ、自らの目と耳で「韓国の今」を確かめたい。

羽太 宣博(元NHK記者)

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