韓国・KBSの730日~政権を批判する韓国メディアと外交~

 大阪のG20サミットが終わった。採択された大阪宣言は、価値観の違う各国が一致点を見いだした結果ともいえよう。焦点の貿易分野では、「保護主義と闘う」との文言は明記できなかったが、自由、公正、無差別という自由貿易の原則を確認している。また、海洋のプラスチックごみ対策、国境を越えるデータ流通に関するルールづくりでも合意し、各首脳たちの強い意志が示されている。一方、今回のサミットでは、激化する米中の貿易摩擦、こう着する北朝鮮の非核化、緊迫するイラン情勢など、国際社会が抱える複雑な諸問題をめぐって、2か国間の首脳会談が相次いだ。とりわけ、米中会談は世界の耳目を引いた。再開される交渉の行方が注目されよう。また、6月30日、トランプ大統領はパンムンジョムを訪れ、キム・ジョンウン委員長と面談した。今後、非核化への動きが活発化するかどうか、注視したい。日韓のメディアが関心を寄せたのは、最悪の関係にある日韓の首脳会談が行われるかどうかだった。写真撮影の折、安倍首相とムン・ジェイン大統領が交わした握手はどこかぎこちなく、立ったままの会話すらなかったという。去年の秋以降、観艦式の旭日旗問題、徴用工をめぐる最高裁判決、慰安婦財団の解散、天皇に対する謝罪要求の発言など、歴史認識問題が相次ぎ、出口がまったく見えない日韓関係の深刻さを如実に示すものとなった。

 韓国のメディアは、悪化するばかりの日韓関係をどう伝えてきたのだろうか。保守系紙日本語版の社説・コラムを見ると、昨今、3つの言葉が浮かぶ。悪化への「憂慮」、ムン政権への「批判」、修復に向けた「提言」だ。関係悪化の影響が経済や安全保障にまで拡大する今、憂慮は深い。「文在寅政権発の韓日関係破綻の恐怖」「韓日関係、これ以上放置すれば韓国の立場ない」(中央日報)、「最悪の韓日関係で大きくなる経済津波への憂慮」(東亜日報)など、枚挙にいとまはない。また、徴用工判決をめぐり、請求権協定に基づく仲裁委員会の設置を求める日本に対し、回答しないムン政権への批判も相次ぐ。「『反日』で韓国を駄目にして日本を助ける『売国』文在寅政権」(朝鮮日報)、「韓国、日本を甘く見れば大変なことになる」「『手当たり次第反日』という愚民化政策=韓国」(中央日報)など、その論調は厳しい。提言はどうか。「韓日間の葛藤、放置すれば衝突コースへ…公共外交で解決を」と題するコラム(中央日報)は、「周辺国の支援と協力がなければ(韓半島の)平和構築は容易でない。・・・政府は相手に立場を説明するパブリックディプロマシー(公共外交」)を強化し、メディアや市民社会も真摯に関係改善を検討する必要がある」と説く。「文・安倍に韓日関係の改善は望めない」とのコラム(朝鮮日報)では、「韓日関係は過去最悪の状況…希望があるとすれば『国民外交』だ。合計1000万人(相互の訪問者数)の交流がその象徴」と提言する。その共通点は、関係修復に向けて、NGO、市民などの民間にも働きかけ、理解を得るという外交手法にある。

 交通、情報通信、技術などがグローバル化して久しい。国家・国際組織がアクター(主体)だった国際社会は、今、NGO、個人、メディアなどが無視できない影響力を発揮し、重要な役割を果たす時代だ。国家同士の外交も、「ソフトパワー」と呼ばれる文化、政治的価値観などを活用し、相手国や世界の市民・世論に働きかけ、自国に対する信頼と理解を高めるというパブリックディプロマシーが欠かせない。日本のパブリックディプロマシー(日本:広報文化外交)は、2004年、外務省に担当セクションが発足しているのが始まりだ。これに対し、韓国では2009年に「国家ブランド委員会」が誕生するが、4年後には成果を得られないまま廃止。その後、2016年に「公共外交法」が施行される。韓国のパブリックディプロマシーといえば、2013年以降、パク・クネ前大統領が外国訪問の際、「日本は正しい歴史認識を持つべき」と強調して慰安婦問題に言及し、各国の首脳やメディア、ひいては世論に訴え続けたことが想起される。パク大統領は20余りの国を訪れ、慰安婦問題への非難決議を呼びかけたものの、目ぼしい成果はなかったという。一方的な歴史認識に立脚し、自らの国益に沿う問題解決を図る試みに説得力はない。それは旧来のプロパガンダにすぎない。  

 新たなパブリックディプロマシーでは、何が問われるのだろうか。筆者にとっては、KBSラジオ国際放送の校閲委員時代に取材・制作した番組コーナーが手がかりとなった。「見た!韓国の素顔」と名付けた番組のコーナーは、月に1回、日韓の市民文化交流の現場を取材し、録音構成として放送した。あわせて21本の放送を通じて、交流する市民の素顔に向き合いながら、相互理解の大切さ、そして難しさを見つめる日々となった。初回の放送は、元東亜日報東京支局長で、当時の韓日文化交流会議座長のチョン・グチョン氏へのインタビュー。2回目は、在ソウル日本総領事館の日本公報文化院長の道上尚史氏だった。2人に問うたのは、日韓関係における市民文化交流の意味と大切さだった。

 ジャーナリストのチョン氏は、当時、日韓共同の放送局を立ち上げるのが夢で、平和維持活動や環境など国際問題に貢献したいと強調。「知彼知己:相手を知り、自らを知ることが大切」と語った。外交官の道上氏は、「(国同士の)外交も大事だが、文化交流、青年交流を続けていくことが大切なこと。そこで問われるのはお互いにRespect:敬愛すること」と説く。さらに、「何かあったらやめるのではなく、続けていくことが大事」と付加した。相手の国、世界中の市民も関わる「国際益」を求め、多様な民間と連携し、世論に訴え理解を求めることの意味が伝わってきた。それが新たな民間外交にも問われることを示唆するインタビューとなった。

 取材して6年余り。メディアにも問いかけてくる言葉として、今なお重く響く。

羽太 宣博(元NHK記者) 

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