韓国・KBSの730日 「慰安婦問題を国際法に照らすと…」 

 8月15日は、平成最後の「終戦の日」となった。全国戦没者追悼式に出席した天皇陛下は「過去を顧み、深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い・・・世界の平和と我が国の一層の発展」を祈念した。一方、韓国では、日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」である。文在寅大統領は「私たちの独立闘争は、世界のどの国よりも熾烈で・・・すべての国民が平等に力を合わせて成し遂げた」と強調。また、「朝鮮半島の完全な非核化と朝鮮戦争の終戦」を目指すとの決意を示した。日韓いずれにとっても、8月は韓国併合以降の植民地支配、忌まわしい戦禍、朝鮮半島分断などの歴史を振り返り、世界と東アジアの平和と安定を考える夏となる。とりわけ、今年の韓国は、10日の「慰安婦研究所」の設立、14日の「慰安婦をたたえる日」の制定と、慰安婦問題に関するニュースが際立った。日本政府は、慰安婦に関する日韓合意(2015年)に言及しながら、韓国政府に「適切な対応」を求め、慰安婦問題に対する日韓双方の立場の違いを示すものとなった。
 日韓関係に暗い影を落とす慰安婦問題は、1990年代以降、慰安婦制度の被害者を支援する市民団体・NGOが提起し、メディアが報じ、大きな外交問題となった。その論点は、「軍の関与」「強制性」「法的責任」の3点である。韓国では、「軍の関与」と「強制」があったとして日本の法的責任を追及し、国家補償と謝罪を求め続けている。これに対し、日本は1965年の日韓基本条約などにより、国家補償は法的に解決済みとの立場だ。もっとも、日本もすべてを否定しているわけではない。1993年のいわゆる「河野談話」では、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送に軍が関与したことを認めている。慰安婦の募集では、軍の要請を受けた業者が甘言や強圧によるなど、「総じて本人たちの意に反して」行った事例が数多くあり、あいまいながらも強制性をも認め、歴代の政権がこれを引き継いでいる。また、1995年、政府が民間ととともに発足させた「アジア女性基金」の運営は、政府が担った。総理のお詫びの手紙、償い金、政府が負担する医療福祉支援費を届けた被害者は、韓国、フィリピン、台湾、オランダの364人にのぼる。韓国の補償請求問題では、憲法裁判所が2011年8月に下した決定に留意する必要がある。決定では、被害者の補償問題について、韓国政府が解決のために具体的な努力を尽くしていないのは憲法違反であるというものであった。これにより、韓国政府は、一層の外交努力が求められることとなった。また、元慰安婦の生存者が27人にまで減った今、猶予の許されない課題になっているともいえよう。
 KBSワールド日本語班に在勤中、校閲した慰安婦関連ニュースは2年間で307本である。このうち、最も大きな波紋を広げたのは、2013年5月、当時の大阪市長の橋下徹氏による慰安婦発言であった。橋下氏は「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的に高ぶっている集団は、どこかで休息をさせてあげようと思ったら慰安婦制度は必要」などと発言。また、沖縄の米軍普天間飛行場を訪問した際、司令官に「風俗業の活用」に言及し、内外の政界、市民団体、メディアなどからこぞって厳しい批判を浴びることとなった。韓国のメディアは「慰安婦制度は必要」との言葉尻を捉えて、「妄言を吐き出した(中央日報)」、「世界NGOが橋下氏発言を批判(東亜日報)」などと揃って非難している。KBSでは「橋下氏の‘慰安婦発言’ 韓国に波紋広がる」「橋本氏の慰安婦発言 韓国政府関係者が批判」などのタイトルで報じ、関連原稿が10月まで続くなど、韓国が事態を重く受け止めていたことが伺えた。橋下氏は、何を訴えたかったのだろうか。その後の発言やツイッターでその真意を確かめてみると、重要な論点が見えてくる。発言翌日のツイッターによれば「今の視点で慰安婦が良いか悪いかと言われれば、それは良いことだとは言えない。ただ世界各国を見れば、軍人の性的欲求の解消策が存在したのは事実」と記している。また1週間後の記者会見では、慰安婦に関する日本の責任を認めたうえで、「(慰安婦問題を)国際的スタンダードで見ようとするなら、米国・英国・ドイツ・フランス、さらに第2次世界大戦後のベトナム戦争での韓国軍・・・も誤りを認めてきちんと反省しなければならない」と指摘している。メディアが断片的、独断的に報じたのに対し、慰安婦問題と向き合うには、何よりも国際的な視点が欠かせないことを訴えたものとみることができよう。
 慰安婦関連のニュースを校閲し終えたある日、元慰安婦の求める国家補償をめぐって議論となった。国際的な視点としての、国際法に照らした議論となったのは言うまでもない。「騙したり強制したりして慰安婦を集め、嫌なことをさせたのはひどいと思う」と日本語班のAさん。「慰安婦制度は戦争責任の一つだし、当時の国際法に反するものとみるのが一般的だと思う。でも、元慰安婦に対する国家補償の請求権は、日韓条約や請求権協定ですべて解決済みとみるのが今の国際法による無理のない解釈だ。元慰安婦が日本で訴えた裁判は、ことごとく原告が敗訴しているのは知ってるでしょ?」と私。議論をここで終わらせる訳にはいかなかった。「国際社会は今、国家、国連・EUなどの国際組織とともに、個人やNGOなども様々な分野で活動して国際社会を動かす存在となり、そのパワーと公共的な役割が注目されている」と説く。   
 韓国メディアであれ、日本のメディアであれ、慰安婦問題は、歴史認識とともに国際的な視点から改めて「三思」するときがきているのかもしれない。
羽太 宣博(元NHK記者)

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