▶愛媛県と安倍首相、どちらかがうそつきだ
たとえば「もりかけ疑惑」のひとつである学校法人・加計学園の獣医学部新設にからんだ問題。愛媛県が5月21日、新たな内部文書を国会に提出した。文書の中から「加計孝太郎理事長が首相と2015年2月25日に面会し、首相が『いいね』と語った」という記載が見つかった。
安倍首相は翌22日、首相官邸で記者団に対し、こう否定した。
「ご指摘の日に加計理事長と会ったことはございません。念のために、官邸の出入り記録を調べたが、確認できなかった」
安倍首相はこれまでも国会で「私の地位を利用して何かを成し遂げようとしたことは一度もないし、加計学園側から相談や依頼を受けたことも一切ない」と答弁し、獣医学部の新設計画を知ったのは「諮問会議で加計学園が学部設置の事業者に決まった2017年1月20日」とも説明してきた。
愛媛県の内部文書と安倍首相の説明は大きく食い違う。一体どっちが本当なのだろうか。裏を返せば、どちらかがうそをついていることになる。
それにしても加計学園の獣医学部新設問題にからんで国会から参考人招致を受けた元首相秘書官の柳瀬唯夫・経済産業審議官も、森友学園への国有地売却問題をめぐって国税庁長官を辞任し、その後に証人喚問された佐川宣寿・元財務省理財局長も、新たな証拠が次々と出てきて答弁の信憑性を失っている。
▶日大アメフト問題でも言い分に大きな食い違い
食い違う主張や見解、言い分があってこそ、真実が明らかになってくる。最近、あらためてこう考えさせられるニュースが続いている。おかしいと感じたら勇気を出して立ち上がることが必要だ。
日本大学アメリカンフットボール部の選手が危険で不正なタックルをした問題も、日大と選手の間に大きな食い違いがある。
5月23日に記者会見した日大の前監督は「私の指示ではない」と自分の指示を否定した。コーチは相手の関西学院大の選手を「つぶしてこい」といったことは認めたものの、「けがを負わせろとの意味ではない。闘志を出せとの思いだった」と弁解した。
これに対し、タックルをした20歳の日大選手は前日の日本記者クラブ(東京・内幸町)での緊急記者会見で、前監督とコーチからの指示によって反則行為のタックルを故意にしたことを明言した。記者会見では自分の名前や顔をそのまま出して関学側に謝罪もした。
世論は彼を誠実な態度だったと支持した。新聞も社説のテーマに取り上げ、「選手の悲鳴受けとめよ」(5月25日付朝日)、「選手を追い詰めた責任は重い」(同読売)、「選手説明翌日の日大会見 責任逃れだけが目立った」(同毎日)と日大側の責任を追及する見出しを付けて論じていた。
不正タックルの問題は日大アメフト部だけにとどまらず、日大全体や大学の体育会の体質にまで問題が波及し、25日には日大の学長が記者会見して一連の騒動を詫びた。
しかし、選手と前監督との主張や言い分の食い違いについては、コメントを避けていた。せっかく学長自らが記者会見まで行ったのだから、食い違いに白黒を付けてきちんと世論に応えるべきだったと思う。
▶うそだったら謝れば済むはずなのだが…
話題を「もりかけ疑惑」で揺れ続ける安倍政権に戻す。
愛媛県が国会に提出した新たな内部文書については、独断と偏見だが、安倍首相側の分が悪いように思えてならない。
昨年12月号の「メッセージ@pen」では、衆院選前の10月8日の日曜日に行われた日本記者クラブ主催の党首討論会の一場面を取り上げた。
朝日新聞の論説委員の質問と安倍首相の応答だ。論説委員が加計学園の疑惑について「首相は新設計画を知ったのが『今年1月20日だった』と国会で答弁していたが、(ごく最近だとの説明に)びっくりした」とただすと、安倍首相は次第に興奮した口調になり、朝日新聞の報道姿勢を批判した。
安倍首相は自分が攻め立てられると、腹立たしくなって怒りを収められなくなるようだ。答弁をテレビの国会中継で見ていてもよく分かる。
それゆえ、もし一度答弁したことが後で事実と違っていると分かっても、訂正できないのだろう。結果的に後に引けなくなる。はたから見ていると、何かを隠しているのではないかと疑いたくなる。
政治家にはうそはつきものだ。うそも方便ともいう。仮に安倍首相がうそをついてしまったのだとしたら、国民に謝罪すればいい。まだUターンできると思うが、いかがだろうか。
日大にも当てはまる。対応の遅れが批判されているだけに、とことん不正なタックルをしてしまった選手の気持ちになって今後の対応をスムーズに進めてほしい。
木村良一(ジャーナリスト)