ミニゼミレポート(第5回) ジャーナリズムの批判精神は機能しているか

2018年3月7日、29年度第5回のミニゼミが三田キャンパスで開催された。今回のテーマは「ジャーナリズムと権力」。今年度アカデミー作品賞にもノミネートされた映画『ペンタゴン・ペーパーズ』を議論の入り口として、日本における報道機関の「権力」報道の歴史と現状についてジャーナリスト7名、研究所所属の教授2名、学生7名が意見を交わした。

『ペンタゴン・ペーパーズ』とは、ベトナム戦争を分析・記録した米国防総省の最高機密文書の通称である。映画は、同文書を入手したワシントン・ポストの発行人と編集主幹が文書公開に踏み切るまでの、ジャーナリストとしての人間的葛藤を描く。

担当の学生は、国境なき記者団によって毎年発表されている「世界報道自由度ランキング」を議論の材料として提示した。同ランキングにおいて、日本は2010年を境に降格を続けている。2017年には72位にランク付けされ、その主な理由として「記者クラブの排他性」や「政治的圧力と自主規制の強まり」などが挙げられている。

日本では記者クラブの存在が調査報道の弊害となっているのではないかという学生の指摘に対し、ジャーナリストの多くが、記者クラブを批判的に捉える見方を疑問視した。記者クラブは、本来的な意味合いの「メディアスクラム」が具現化された一つの取材の形であり、自然発生的に他社とスクラムを組むことで権力に対峙しているとする見方もあることが紹介された。

また、米ホワイトハウスや韓国にも記者クラブと同様の「プレスクラブ」があるという。「世界報道自由度ランキング」を研究した教授は、ランキングの指標に偏りがあると指摘。日本の「記者クラブ文化」を閉塞的と切り捨てるのはあまりに一方的であるとした。

記者クラブに関する議論の流れで、話題は東京新聞の望月衣塑子記者にも及んだ。社会部に所属する望月記者は昨年、菅義偉官房長官の記者会見の場で、「加計学園問題」を追及する質問を繰り返したことで注目を集めた。ある学生は、望月記者の記者会見での言動に対し批判的な見方を示した。官房長官の発言は、外交問題であれば諸外国と擦り合わせを済ませた上で用意されていることもあり、発言が一度公に出ればそれは政治的影響力を持ち始める。そのため政府の記者会見とは「予定調和」になるものであり、「予定調和」を乱すような質問を平場で投げかける行為はパフォーマンスにすぎないと主張した。

これに対し研究所教授は、内政・外交にかかわらず、政府はそれぞれの発表について十分な説明を尽くすべきであり、菅官房長官はその説明を尽くしきれていないと批判する。またある記者は、望月記者の質問には「ファクト」が欠けており、それが批判の種を蒔いているとしながらも、政治の不透明性に切り込もうとする記者の姿勢を高く評価していた。記者クラブの存在に甘んじることなく、政府の説明責任を追及する意識こそが、権力を批判的に捉えるというジャーナリストの基本姿勢であることを確認した。

学校法人森友学園への国有地売却の決済文書が改ざんされていた事実が朝日新聞によってスクープされたばかりということもあり、「ペンタゴン・ペーパーズ」報道との類似点を指摘する声も上がった。ジャーナリストの一人は、朝日新聞に続いて公文書書き換え問題の追いかけ報道を行う社が少ないことに懸念を示した。一方で、記者にとっては「他社に抜かれたネタ」を後追いしたくないという心理が働きやすいとも指摘。それを踏まえれば、「ペンタゴン・ペーパーズ」報道でニューヨーク・タイムズに追随したワシントン・ポストの決断は、ジャーナリズムの健全な批判精神が機能した最たる例であると言える。

ミニゼミ開催から1週間後、毎日新聞夕刊には、森友学園の疑惑を掘り起こした「朝日(新聞)に敬意を表する」という内容の記者コラムが掲載された。まさに社と社が「スクラム」を組んで政府の説明責任を追及する姿を目の当たりにし、この国のジャーナリズムに一筋の光明を見た。

30年度初回のミニゼミは5月16日を予定している。

 

広瀬航太郎(慶應義塾大学法学部政治学科3年)

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